!現代パロディ


「なんで…!」


黒こげの物体を見て落胆する私。
本来ならば、キツネ色のおいしそうなクッキーができあがるはずだったのだ。
分量もきちんと計って入れたし時間だってきっちり合わせた。それにも関わらずこの始末。
何が悪かったのかがわからない。


「不器用さんがクッキーなんて作るのが間違ってたのかな…」


私は自他共に認めるほどの不器用だ。縫い物をしたら縫い目はガタガタ、包丁を持たせたら大きさバラバラ。
女に生まれてきたのが間違いだったのではないかと最近思えてきた。
そもそもなんで私がクッキーを作っているのかというと。





『手作りのお菓子っていいよねー。』

『どうしたの?いきなり。』

『いやね、後輩から調理実習で作ったマフィンもらってさ。もう俺様モテモテで困っちゃうぜ。』

『ハイハイ、よかったね。』





つい2週間ほど前に彼氏とこんな話をしたからである。
その時は軽く流してしまったけれど、よく考えれば、私は手作りのお菓子をあげたことがないことに気がついた。おまけに知りもしない後輩に先を越されてしまっている。
その事実に気づいた私は、彼女として手作りお菓子を渡さなければならない!と決意した。


「味は悪くないんだけど…なぁ。」


決意とは裏腹に技術は追いついていない。コゲた部分をそいで、小さくなったクッキーを一片口に入れる。
彼の好みに合わせて甘さ控えめに挑戦してみたのだが、味は悪くはなかった。
問題は見た目である。


「こんな真っ黒はさすがに渡せな…『なにしてんの?』…え?」


背後に立つ人影。
私はその声にに一瞬思考停止してしまった。
音も気配もなく彼は我が家の台所に来ているのだから。


「な…ななな、なんでいるの!?」


彼の方に振り向き、黒こげクッキーを背中にかくす。(こんなもの、見せられるわけがない)


「時間になっても来なかったから迎えに来ちゃった。」

「時間…?」


時間とはなんの時間?
今日の予定を頭の中で思い浮かべると、すぐにデートという予定が出てきた。
今日は1時からデートだった。そのために朝から早起きしてクッキーを作っていたのだ。
さっき時計を確認した時は10時だったから、まだ1時間程度しか経っていないはず…。
チラリと時計を見れば。


「…う、そ」


約束の1時を30分も過ぎていた。一体私はどれだけクッキー作りに集中していたのだろう。


「ごめん…!」


本当にごめん。
手を合わせて必死に謝る私。
約束の時間を30分過ぎてるということは、いつもその10分前には待っている佐助には、かなり待たせたことになる。(ああ、なんて申し訳ないことを…)


「今すぐ準備するから待っ…『今日のデート、さ…』…ん?」

「俺様とお菓子作りでどう?」


クッキー、一緒に作ろうよ。
佐助はニコッと微笑み、私の腕から黒コゲクッキーを取った。


「ちょ、お腹壊しちゃうから!」

「コゲぐらいじゃお腹は壊さないよ。」

「で、でも…」

「せっかくひめが作ったんだから、食べなきゃもったいないっしょ?」


いただきます。
佐助はクッキーを口に放り込んだ。反応は予想できるが、それを直接見るのが怖くて私は目をつぶった。(苦い顔をみたらやっぱりショックだもの…)


「なるほどねぇ。ん〜、味は悪くないから…」

「さ、佐助?」


恐る恐る目を開ければ、佐助はどこから取り出したのか)割烹着を身につけ、じゃぶじゃぶと手を洗っていた。
変に割烹着が似合ってて少し笑いがでた。


「似合うね、割烹着。」

「…あんま嬉しくないんだけど。」

「ごめんごめん。」

「まぁいいや。じゃ、クッキー作りを始めましょー」

「はーい。」


佐助は指示を出し、私はそれに従って材料を準備する。佐助の指示は的確で、参考にしていた雑誌なんかよりすごくわかりやすくて丁寧だった。


「んじゃ、アルミホイルをかぶせて焼くよ。」

「アルミホイル…?」

「そっ。時間はさっきと同じね。」


私は佐助の指示通り、クッキーにアルミホイルをかぶせてオーブンに入れた。


「ちゃんと焼けるかなー」

「大丈夫だって。」


焼き上がるまで佐助と道具の後片付け。
佐助のあまりの手際よさに、いいお嫁さんになりそう…とポツリと呟いた。


「んじゃあ嫁にもらってよ。」

「へ?」


てっきり怒ると思っていたから、真逆の反応でまぬけな声をあげてしまった。


「ていうかさ、ひめには俺様がいなきゃムリだもんね。」

「ちょ、どういうこ…―ピーッ!」


反論しようとしたら、オーブンが鳴り、クッキーが焼けたことを知らせる。
ここは一先ずクッキー優先というわけで、オーブンに向かう。
大丈夫かな…と不安になりながらオーブンを開ければ。


「コゲてない…」

「さっすが俺様。」


キツネ色に焼けたクッキーが姿を現した。
見るからにおいしそうで、これは成功だと確信した。


「やったー!ありがとう!佐助!」

「ん。」

「佐助がいなかったら成功しなかったよ。」

「だから言ったっしょ?」


俺様がいなきゃムリって。
ニヤリと笑う佐助。
悔しいけれど、佐助の言った通りだ。
どうやら私には佐助が必要らしい。


「お嫁さんになってくれる?」

「ここは"旦那さん"って言ってよ…」

「じゃあ、お嫁さんにもらってくれる?」

「………!」


佐助の顔が一気に赤く染まる。
いつもの佐助ならおちゃらけた様子で返してくれるはずだが。
見慣れない佐助にちょっと心がときめいた。


「そのセリフ、不意打ち。」

「なにが……って、ちょ!」


ガバッと勢いよく佐助に抱きしめられる。
急だったので驚いたが、佐助の心音を聞いたら、落ち着いた。
ドクドクと心音が聞こえる。
私はそっと佐助の背中に手を回した。


「仕方ないからもらってあげる。」

「仕方ないってどういうことよ!?」

「俺様にもひめが必要っぽいしさ〜。」

「え?"ぽい"?確定じゃないの?」

「さあね。それより…」


クッキー、食べよーぜ?
一度ギュッと抱きしめられた後に、身体が離れた。
ちょっとだけ、離れたくないって思ったのは佐助には秘密だ。


「まだラッピングしてないからダメ!」


クッキーをつまもうとする佐助の手を払い、佐助をそのままリビングへ追い払う。
次は佐助の手を借りずに可愛いラッピングにしなければ。


「そのまえに…っと。」


クッキーを1つつまんで口に入れた。
味もサクサク感も言うことなしの出来映えにクスリと苦笑する。
やはり私には佐助が必要らしい。
そう実感しながら、私はラッピングを始めた。










アイ ニード ユー

(結構余っちゃったなぁ…幸村くんにもおすそ分けしようかな)
(ちょ!ダメだって!ひめの愛は俺様だけのものなんだから)






初ばさら初佐助
オカンを目指したけどなんか変…。。


20110704



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