突然だが、私の彼氏は天使だ。
彼の笑顔はマイナスイオンを放出している。その笑顔を向けられた相手は間違いなく癒されることだろう。
おまけに彼は親切で優しい心の持ち主。
はっきり言って私の彼氏にはもったいないくらい善い人だ。


「そろそろ来るかなー。」


一緒に夕食を食べる約束をしている私達。待ち合わせ場所である食堂の前で彼を待っていた。
今日は委員会の活動日だから少しばかり遅れてくるかもしれない。


「ひめちゃん!ごめん!遅れちゃって…」


バタバタと廊下を走る音と共に現れた私の待ち人。ハァハァと息をきらしていることから彼が急いで来たことがわかる。なんていい人なんだ…!


「私もさっき来たところだよ。委員会お疲れ様。」

「ありがとう。じゃあ、中に入ろうか。」


ふふ、と笑ってから、食堂に入る彼。私はその後について食堂に入る。
夕食時なため食堂の中は人がいっぱいだった。空いてる席はないかと周囲を見回す。


「あ、あそこ。空いてる。」

「本当だ。取られないうちにメニューを選らばなきゃね。うーん、今日はなんにしようかな。」


食堂の端の2席がたまたま空いているのを発見。取られないうちにメニューを早く決めなければならないが、彼だとそうもうまくいかない。
迷い癖のある彼だから、今日のメニューで迷ってしまう。
今日のメニューは、からあげ定食、焼き魚定食、カレーライスの3種類だ。


「からあげかなー。でも、焼き魚もいいなー。」


メニューを見て悩み始める彼。
悩み癖で有名な彼は、やはりその名の通りだった。日常茶飯事である。
しかし、私は焦らない。対処法を知っているからだ。


「私が焼き魚定食にするから、雷蔵くんはからあげにしない?はんぶんこしよ?」


両方食べたいならば、はんぶんこすれば解決。おまけに彼と食事までも共有するできて 一石二鳥。
彼は、そうするよ。とちょっと照れながらおばちゃんに唐揚げ定食を注文した。続けて私も焼き魚定食を注文する。


「おばちゃん、焼き魚定食ください。」

「はいよ。今日も二人は仲良しだねぇ。」

「あはは。」


おかずを盛り付けながら、温かい笑顔を向けるおばちゃん。ほぼ毎日のように私と彼のやりとりを見ているからこそ温かく見守っていてくれるのかもしれない。
しかし、お残しは許しまへんで。お決まりの台詞ではギロリと目付きが変わってしまったが。  


「よかった。まだ空いてたね。」

「端っこってなかなか空いてないもんね。」


目をつけていた端の席は無事だった。彼と向かい合うようにして腰かけ、胸の前で合掌し「いただきます。」と声を合わせて言う。
そして、半分こする約束だった焼き魚に箸をつけた。


「はい、 ひめちゃん。」

「あ、ありがとう。えっとここに……え?」


魚を分けることに夢中で、彼を見るのが少し遅れてしまった。すっと彼に目線をずらすと、目の前にからあげが差し出されていた。なんで?と首をかしげる。


「あーん、しよ?はい、口開けて。」

「え、えぇぇ?」


相変わらずまぶしい笑顔を見せる彼。急にどうしたんだ…!あり得ない彼の行動に戸惑いを隠せない。
一瞬、彼は鉢屋くんではないのかと疑ってしまうくらい。


「 ひめちゃん早く。腕疲れてきちゃったよ。はい、あーん。」

「う、あ、……あーん。」


彼は笑顔のままだったが、何か少し違っていた。そして、逆らってはいけない気がして、狼狽えながらもあーんと口を開いてしまった。するとからあげが口に入れられ、反射的に口を閉じると彼は箸を抜いた。
ニッコリ満足そうに微笑む彼を見て、恥ずかしさが込み上げてきた。
おいしいはずのからあげの味も感じることができない。


「ふふ。可愛いね、 ひめちゃん。」

「なっ……!」


恥ずかしい。恥ずかしい。これは恥ずかしい。
顔が真っ赤であるのが自覚できるほど顔が熱い。
ストレートな彼の言葉がより羞恥を煽るのだ。


「次は ひめちゃんからしてもらえると…僕、すごく嬉しいな。」


えへへ。
なんて効果音がつきそうな照れた笑みを浮かべる彼。(雷蔵くん、あなたの方が可愛いじゃないか)
次、ということは、もしかしていやもしかしなくとも、焼き魚を差し出す時のことを言っているのではないか。
可愛い笑顔でとんでもないお願いをする彼はやり手な人だ。あんな可愛い顔されたら断れるはずがない。
私は決心した。


「ら、雷蔵くん。その、えっと…、あーん。」

「あーん。」


私の差し出した焼き魚は、パクリと食べられてしまった。
彼は笑顔で咀嚼して、ごくりと喉を動かす。


「やっぱりおばちゃんの料理は美味しいね。それに、 ひめちゃんがあーんしてくれたから2倍おいしいよ。」


やっぱり彼の笑顔は素敵だ。天使だ。
恥ずかしい台詞をためらいなく言ってくれる彼が大好きだ。私にこんな台詞を言ってくれる人は彼以外いないだろう。


「わ、私も、雷蔵くんから食べさせてもらったからあげ、とってもおいし…『何をいちゃついてんだ。お前らは。』……いたっ!」


気持ちを伝えていた最中に、誰かが割り込んできた。おまけに後頭部をバシッと叩かれる。この声は聞き覚えがある。いや、聞き覚えさせられた。


「文次郎先輩!痛いじゃないですか!」

「場所をわきまえないお前らが悪い。」


私の所属する委員会の委員長、潮江文次郎先輩だ。
この先輩は何かと私に絡んできて正直、ちょっと面倒くさい人だ。それなりに尊敬もしているが。


「だからっていきなり叩くことないじゃないですか!」

「口で注意したところでお前が聞くはずがないからな。」

「そ、そんなはず…!」

「反論か?これまでにそういうことは一度もなかった気がするが。」

「……っ。」


文次郎先輩は勝ち誇った顔で私を見下ろしている。悔しいが、先輩の言ったことは事実である。よって反論はできない。悔しさから下唇を噛み締める。


「まぁ、お前らの行動には文句は言わんがちったぁ場所を考えろ。」

「……これから気を付けマス。」


よしよし。と軽く私の頭をなでる先輩。1つしか年は変わらないのにこの扱い。恥ずかしいが、ちょっと嬉しくもある。アメとムチの使い分けがうまい先輩である。


「しっかしなぁ、雷蔵。こんなヤツのどこがいいんだ?」

「こんなヤツってどういうこ…『もちろん全て、ですよ。』…雷蔵くん!」


キッパリと言い切る彼。全て、なんて嬉しすぎて感動してしまった。
確かに先輩の言う通り、なんで私なの?というくらい私にはもったいないよくできた彼氏なのだ。


「 ひめのすべて、か。」

「回答がご不満ですか?そしたら一から言っていきましょうか。」


フッと鼻で笑う先輩に対して、笑顔で応える彼。彼の纏う空気が少し重くなった気がするのは私だけだろうか。そして笑顔もひきつっている。


「おいおい、そんな殺気放つんじゃねぇよ。それとも、勝負したいなら、別だが?」

「まさか。潮江先輩に勝負だなんて無謀すぎますよ。」


睨み合う2人。先輩が喧嘩っ早いのは分かるが、穏やかな彼がこんな風に殺気を放ってるのが信じられない。(というか、なんでこうなってるの?)


「それよりも先輩。彼女の頭から手をどけてくれませんか?」

「手?あぁ、これか。忘れてたぜ。」

「忘れてたって…ひどいじゃないですか。」


先輩はサッと手を退けるとこれでいいだろ?と手をヒラヒラとさせて雷蔵くんに見せた。私の言葉は当然無視である。(くそぅ)


「そうカッカすんな。誰も取りゃしねぇよ。」

「当たり前です。 ひめは僕の彼女なんですから。」


触らせるのだって嫌なくらいですよ?
アハハハハと声を上げて彼は笑うが目は笑っていなかった。おまけに私の名前をいつもはちゃん付けで呼ぶのにさっきは呼び捨てである。雰囲気が変わりすぎていて少しばかり恐怖が芽生える。
一方、先輩は「いつでも受けてやるからな。」と言って食堂から出ていった。せっかく和やかだった雰囲気を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して帰っていきやがったのだ。


「じゃあ、食べようか。」

「あ、うん。そうだね。」


何事もなかったかのよう彼は食事を再開した。私もつられて箸を手にとり、焼き魚へと箸を伸ばす。


「ねぇ、 ひめちゃん。」

「ん、なに?」


もぐもぐ咀嚼していた食事を喉へとおくり、彼に返事をする。


「僕の前ではあんまり潮江先輩と仲良くしないでね?」

「仲良く…?いやいや、仲良くなんてしてないよ。」

「十分してるじゃないか。…まったく、そんなに僕を妬かせたいの?」


彼の声はちょっぴり怒っていた。でも、顔は赤く照れているようだった。
妬かせる、なんてこれ以上自惚れてもいいのだろうか。文次郎先輩とは仲良くしてるつもりはないが、彼を不快な思いにさせてしまうのなら、先輩と関わるのは必要最低限にしようと思う。


「わ、わかった。気をつけます。」

「ごめんね、ありがとう。 ひめちゃん大好きだよ。」

「あ、え、う…わ、私も!」


雷蔵くん大好き。
不意打ちすぎる彼の言葉にかなり動揺したけれど、彼にも返さなければ!と私も同じ言葉を告げる。
彼は、一瞬びっくりした顔をしてからふふっと笑った。ああ、やっぱり彼の笑顔は癒される。


「あ、あとね、間接キスもいいけど、唇同士でキスもしたいな。」

「……え?」

「ご飯食べ終わったら僕の部屋においでよ。」

「う…?」


よし、決まりね。
私は返事をしたつもりはないのだが、彼には肯定に聞こえたようだ。最初の言葉はひっかかるけど、彼のことだ。部屋に誘うことに下心はないだろう。今日は嫌いな科目の課題が出ていたから彼に教えてもらおう。


「うん、わかった。宿題、持っていってももいいかな?」

「いいよ、わかんないところがあったら教えてあげる。」


やはりそうだ。いつものように彼の部屋で課題をやって今日のことお話ししてまた自室に戻る流れになるだろう。


「ありがとう!」

「僕としても頼ってもらえて嬉しいよ。」


ニッコリと笑顔を向ける彼。マイナスイオンは今もなお放出中だ。
そんな笑顔を独り占めしているのかと思うとすごく胸が高まる。本当に私にはもったいないほど、彼は優しくて頼りになる素敵な彼氏だ。


「雷蔵くん好き。大好き。私を彼女にしてくれてありがとう。」


私、世界一幸せ者だよ。
素直に言葉にすると彼も笑って、僕も。と返してくれた。
忍者の三禁なんてくそくらえ。










恋の相手は天使でした

( ひめちゃん、頭撫でていい?)
(う、うん!)
(他の男の人には触らせちゃダメだよ?)
(はい…?)






初らいぞーさん夢
らいぞーさん大好きです


20120419




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