!現代パロディ

私の彼氏は本好きだ。
小説はミステリーや純文学等ジャンル問わず読み、哲学とか文化とか難しいことが書いてある新書だって読む。
そして、彼の読書の定位置はソファー。足を組んで座り、時には寝転び、文字を追ってはページをめくる。
彼の視線はいつも本だ。それは、彼女の私がいても変わらなくて。


「ねぇ、雷蔵」

「んー?なぁに?」


ソファーを背もたれにして地べたに座る私。
構ってほしくて名前を呼んでみた。彼は呼びかけに返事はするけれど、視線はずっと本のままで。
きっと彼の頭の中に私はいない。彼はいま、本の世界の中で生きているから。
読んでいるのは彼にはちょっぴり珍しい恋愛小説。
あぁ、彼はいま、主人公になって物語の女性に恋をしているのだろうか。現実の彼女には目もくれずに。


「はぁ、もういいよ」


そっとため息をつく。どうせ彼の耳には届いていないだろう。
構ってもらえないことに苛立ち、知りもしない架空の女性に嫉妬している自分が馬鹿らしくて自己嫌悪。
今日は早めに家へ帰ろうか。ここにいても自分が嫌になるだけだから。
帰りの電車何時のがあったかな、と携帯を開いてネットで時刻表をチェックする。今からここをでればちょうど間に合う時間の電車を見つけた。今日はこれで帰ろう。床から腰を上げようとしたその時。


「まだ、帰っちゃだめ」


上から声がした。見上げれば、彼の視線の先には私の携帯があって。どうやら電車をチェックしていたのを見られたらしい。
なんでこういう時に限って本に集中してくれないのか。


「だって、雷蔵、構ってくれないもん」


いじけた私は帰る理由を彼のせいにして。
我ながらめんどくさい女だなと思うけれど、わがままだって言いたい時もあるのだ。
私の返事に雷蔵はあはは、と眉を下げて笑って。
読みかけの本をパタンと閉じその場から立ち上がる。


「ごめんごめん。ほら、ここにおいで」


一人分のスペースを開けてから再び腰かけ、そのスペースをとんとん、と叩く。
隣りにおいで、と彼は言いたいらしい。


「隣りに座ったって、雷蔵はまた本を読むんでしょう?」


それでも私の機嫌は直らない。少しだけ意地になっているのもあるだろうけど。
そう簡単に私は流されないんだから。
ぷいっとわざとらしく顔を背ければ、雷蔵はまた笑って。


「ご機嫌ナナメなお嬢さんにはこっちの方がいいかな?」


こっそりと雷蔵に目線を送れば、雷蔵はぽんぽんと自分の膝を叩き。
お膝においで、と続けた。
構ってほしいとは思っていたけれど、膝に座るのはさすがに恥ずかしい。


「そ、そこまでサービスしてくれなくて、いい、です」


恥ずかしさで思わず敬語で返してしまう始末。
さっきまでの不機嫌はどこかにいってしまったようだ。
雷蔵は雷蔵で、私の返事に「残念だなぁ」なんて言いつつも嬉しそうな顔をしている。
機嫌が直ったのがすっかりバレてしまっているようだ。


「とにかく、隣りにおいで。本も楽しいけれど、ひめの方が楽しいし大好きだから」


今度はひめに夢中にさせて?
そんな事を言われたら、もう意地なんか張ってられなくて。
雷蔵の優しい笑顔につられて、私はソファーへと場所を移した。
そして抱きしめられるように肩に腕を回される。あぁようやく恋人同士の時間が始まった。


「雷蔵のお望み通り、私に夢中にさせてあげるね」


横に座る雷蔵の、やわらかな頬にそっと口づけ、私は微笑んだ。
構ってくれなかった分、たくさん愛してもらうんだから。
私の考えを読み取ったのか、雷蔵もほほえみ、今度は雷蔵から私の唇にキスが落とされる。
そして、両肩をつかまれ、私の身体はソファーへと沈んだ。











もっとたくさん構って欲しいの

(今夜はもう泊まっていくでしょう?)
(泊まるも何ももう電車がないじゃない)
(あれ?そうだっけ?)
(わかってて言ってるでしょ)



*----------*
恋人×ソファーのシチュ
雷蔵さんとソファーでゆっくりくつろげたら幸せ



Title:【capriccio】様
20140510



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