!現代パロディ


「三郎様、ちょっとお時間いただいてもよろしいでしょうか…?」

「…なんだ?」


終礼後、私は三郎の席へと近寄り、声をかけた。
私の物々しい言い方に三郎は怪訝そうな顔をする。今日の終礼は早めに終わったのだが、雷蔵のクラスの担任は話が長いからきっとまだ終わっていないだろう。雷蔵とは一緒に帰る約束をしているので、雷蔵がくるまでまだ時間はかかるはずだ。
そして、三郎の彼女さんも雷蔵と同じクラスだから、三郎も彼女を待つに違いない。


「…お願いがあるんです。」

「とりあえず聞いてやる。」


そこに座れ。
三郎は前の席を指さし、私を座るように促す…というより命令してきた。
いつもは意地悪な三郎だけど、今日は珍しく話を聞いてくれるみたいだ。私は席に座って、機嫌を損ねないうちに、と思い、すぐにお願い事を話した。


「ネイルアート、してほしいんです。」

「…は?」


三郎はとても器用だ。そして、彼女さんの影響(?)でネイルアートにすっかりはまってしまい、三郎のネイルスキルはお店でやってもらうものと同じ…かまたはそれ以上のレベルだ。
一方私はとても不器用で、利き手の爪を塗る度にはみ出したりだとかムラを作ってしまったりだとかでうまくネイルができないのだ。でも、可愛い爪には憧れていて、ちょっとした柄をつけたり邪魔じゃない程度にデコレーションしてみたり…と色々と想像するのだけど、お店でしてもらうお金なんてないので、あまりネイルをすることはなかった。
しかし、三郎の彼女さんから三郎のネイルスキルのことを聞き、やってもらいたいと思ったのだ。
三郎に借りをつくるようなことはしたくないと思うが、今回は特別だった。


「今度、久しぶりにデートするの。」


今週末に雷蔵とデートするのだ。
テストや部活動があってなかなか都合が合わずにここ数ヶ月ほどデートができていなかったので、久しぶりのデートになる。そのため、より気合いを入れてデートに臨みたいと思っていたのだ。
好きな人の前ではできるだけ可愛い姿でいたいと思うのは、恋する乙女にとっては当たり前のことだと思う。


「…お前、不器用だもんな。」

「…だからお願いしてるんでしょ。」


三郎は人を見下すかのような顔をして言った。その顔に少し腹が立ったが、今回は水に流そう。
雷蔵とのデートのためだ。三郎の機嫌を損ねないためにも我慢しなければ。
私はわき上がってくる怒りを抑え、もう一度三郎にお願いした。


「お願いします…!雷蔵に可愛いって言われたいの…!」

「…まぁ、いいか。最近アイツさせてくれないし…な。」


はぁとため息混じりに言う三郎。
三郎には悪いが、彼女さんには大感謝だ。私はありがとうございます!と何度も言った。
三郎のスキルならきっと可愛い爪に仕上げてくれるに違いない。
私がデートの日程を伝えれば、三郎は苦い顔をしつつも了承してくれた。
その後すぐに雷蔵と三郎の彼女さんが教室に入ってきたので、そのまま一緒に帰ることになった。
もちろん、雷蔵には秘密で。彼女さんにはメールで一言断れば、「どんどん使ってね。」という返事がきた(三郎ちょっとかわいそう…)


そして、デート当日。
三郎達もお家デートの予定だったらしく、朝早くに彼女さんのおうちで三郎にネイルアートをしてもらった。
今日の私のファッションに合わせた柄と色の可愛い装飾をしてくれた三郎。
三郎のネイルスキルはやはりすごかった。これはお金が稼げるレベルだと思う。


「やっぱり可愛い…。」


思ってた以上にネイルが早く済んでしまったので、私はそのまま待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ15分前。雷蔵の反応が楽しみで、私は時折爪を見つめてはニヤニヤしていた。


「ごめんね、遅くなっちゃった。」


寒かったよね、ごめんね。
何度もごめん。という雷蔵。優しい雷蔵はいつもデートの時は先に来ている待っているから、私がこうして先に来ていることに焦っているようだ。


「私もさっき来たところだから、大丈夫だよ。雷蔵待ってるの楽しかったもん。」


いつも待たせている側の私にとっては新鮮なことで、雷蔵をことを考えながら待っている時間は意外と楽しかった。
雷蔵もこう思いながら私を待ってくれていたのかな、と思うと少し嬉しかった。
私は「だから、気にしないで。」と言って雷蔵に笑顔を向けた。


「それじゃあ、いこうか。」

「うん。」


差し出された雷蔵の手に自分の手を重ねる。
雷蔵はこの爪に気づいてくれるだろうか。可愛いと言ってくれるだろうか。
期待して、雷蔵に顔を向ければ。雷蔵はニッコリ笑っていて。


「可愛いね。」


褒められた。
あぁ、三郎に頼んでよかった。好きな人のために可愛い格好して、こうして褒められるのはやはり嬉しい。


「ありがとう!嬉しい。」

「それにしてもキレイにできてるね。すごいね、ひめちゃん。」

「あ、いや、これは…。」


雷蔵は自分でやったと思っているらしい。
私は慌てて訂正をした。自分はやってない、と。


「あー、えっとね…三郎にしてもらったの。」

「え?三郎に?」

「うん、実は…」


今までのことをすべて雷蔵に話す。
三郎にお願いした時のこと、三郎のネイルスキルのこと、今朝のことすべて。
雷蔵はうんうん、と頷きながら私の話を聞いてくれた。


「三郎、すごいよね。こんなキレイに仕上げてくれるんだもん。」

「三郎は器用だからなぁ…。」


はは、と笑う雷蔵。
でも少しだけ元気がなさそうに見えるのは気のせいだろうか。
大丈夫かな、そう思っていたら。急に手を持ち上げられて。
雷蔵の顔の近くまで持ち上げられた。


「らい、ぞ…?」

「僕、不器用だから、悔しいなぁって。」

「え…?」


じっくりと私の手を見た後、手を下ろしてくれた雷蔵。
そして、ぎゅうと強く握りしめられる。
悔しいとは一体…?
確かに雷蔵は不器用だけど、雷蔵は普段からそれを気にしている様子はなかったし、私もそんな不器用な雷蔵は可愛いと思っていたので、悔しいという言葉に込められた意味がわからなかった。


「三郎に手、さわられたんでしょう?」

「まぁ…指先を軽く持ってもらった…感じかなぁ。」


ネイルをしてもらう時にそっと指先を触られただけで、それはネイルをしてもらう上で当たり前のことなので特に気にしてはいなかったのだが。
雷蔵は私の言葉に「やっぱり…」といって小さくため息をついた。
どうやら私は彼に気に障るようなことをしてしまったらしい。
何をしてしまったのはかわからないのだけど、


「…君に、触れてほしくなかったんだ。いくら、従兄弟の三郎だとしても。」

「……え?あの、それって…」

「うん、ヤキモチ。嫉妬しちゃった。」


雷蔵が、三郎に、ヤキモチ…。
仲良しな従兄弟に対して…ヤキモチ?と一瞬信じられなかったけど、雷蔵の真剣な顔を見ていたらどうやら本当にヤキモチをやいてくれたようで。
私は一気に身体が熱くなった。
三郎にヤキモチをやくほどまでに、雷蔵に想われているということであって。嬉しさと恥ずかしさで顔が赤くなってしまった。


「独占欲、強くてごめんね?」

「あ、え、いや、嬉しいよ…?その、雷蔵にそこまで想ってもらえてるんだってわかったから…。」


私こそごめんね。
雷蔵に褒めてほしくてついつい手短…あ、えっと…頼りになる三郎にお願いしてしまったけど、雷蔵のことを何も考えられていなくて。
もし私が雷蔵の立場で、友達でも女の人に雷蔵をさわられるのは嫌だと感じてしまうから。
そう考えると。私も独占欲が強いらしい。


「これから、気をつけるね。」

「ふふ、ありがとう。」


お互い顔を合わせてにっこり笑顔。
つないだ手をぎゅうともう一度強く握りしめて。


「それじゃあ、行こうか。」

「うん!」


長い立ち話を終えてようやく私達は歩き始めた。
今日は久しぶりのデート。
数ヶ月我慢してきた分、たくさんたくさんいちゃいちゃしなくては。










恋色の爪先

(三郎、今度ネイルアート教えてくれない?)
(はぁ…?)
(教 え て く れ る よ ね…?)
(わ、わかったから!わかったから睨まないでくれ…!)
((今度は僕がひめちゃんにやってあげるんだ))



*----------*
三郎はネイルアートうまそうだよねってことで。
三郎と彼女さんのお話も書けたらいいなぁ


20130505



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