長次からの誕生日プレゼントは毎年二つ。
センスの良いプレゼントだけでなく、手作りの料理とバースデーケーキ。
…でも今年は…。
LET'S KISS THE SUN
いつでもこの瞬間は少しだけ緊張する。
インターホンを押して彼が出てくるまでの数秒間。
ちょっとでもドアが開くのが遅いと、忘れられてるんじゃないかって…そう思うと、ひゅっと寂しくなってくる。
でもそんなこと考えてたのが馬鹿みたいに、出てきた彼は優しい表情で私を迎えてくれるのだった。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
もう何度目かの長次の部屋。
挨拶も短く交わし合い、私は靴を脱ぎ部屋へ上がる。
ワンルームの狭いアパートだけど、簡素な外見とは裏腹に、彼の部屋は暖かな色合い。
ほんのり春めいた、心落ち着く空間だ。
そんな暖かみのあるこの部屋の一部に、漫画本やゲームを発見する。
きっと彼の親友が置いていったものなのだろうと連想されて。
それらがきれいに片付け、保管されているのを見ると、また長次の人の良さが垣間見られるというものだった。
彼の部屋におじゃまするときは、手ぶらで来るのが憚られて。
途中で買った小さな花のブーケを渡せば、
「今日はひめの誕生日なのに…」
と、もっともな言葉が返ってくる。
わかってはいても、彼と会う日は何かをプレゼントしたくなるの。
だって長次はいつも喜んで受け取ってくれるから。
さっきのお土産の花束も、早速花瓶に挿してくれる。
予想通りの結果に私は大満足だった。
彼のそういうところが、私の心を離さないのだ。
それからの私は炬燵に入り、ただ待機しているだけ。
それだけでどんどん美味しそうな料理が運ばれてくる。
彼の自信作たちがテーブルに並び、それを私はくんくん鼻をひくつかせながら覗き込む。
今日は特別だからっていうのもわかってる。
でもこうも素晴らしいもてなしをされると、嫌でも夢見ちゃうよね。
彼と結婚したら、こんな料理が毎日食べられるのかな…って。
自分が作る側じゃないのがちょっと情けなくなるけれども。
行儀よく手を合わせて、長次お手製の料理をいただく。
どの料理も見た目通りとても美味しい。
初めて作ったという新作メニューも、さすがとしか言いようのない出来栄えだった。
食べた人を幸せにする、そんな料理だと思う。
他愛ない会話を挟みながらの夕食もぺろりとたいらげ、これまた長次お手製のバースデーケーキが登場する。
今年は私のリクエストに答えての、フルーツがたくさんのっかったチョコレートケーキだ。
上にのったフルーツも一つ一つ丁寧に切って形を作ってくれたのだろう。
並べられた色とりどりなそれらは、輝かんばかりに鮮やかで華がある。
包丁を入れるのがもったいないけど、食べるためには仕方がない。
甘さも丁度いい彼のケーキ。
ご飯を食べた後だって、簡単にお腹に入っていく。
この日のために甘いものを控えてきたから余計に長次のケーキが私服すぎる。
ホールの残りはいただいていくことになっているから、また後でもこのケーキを味わうことができるかと思うと自然と顔が緩む。
これも毎年のことだ。
そしてもう一つのプレゼント。
長次の手から小さくもきれいにラッピングされた箱を手渡された。
「ひめ、誕生日おめでとう」
「開けていい?」
そう尋ねればこくりと頷き、静かに包みを開く私を見守る。
中から顔を出したのは、淡く透き通ったブルースピネルのイヤリングだった。
「きれい」
神秘的な蒼い宝石に暫く見惚れていると、
「ひめに似合うと思った」
と、長次から言われ、私は素直に嬉しくなった。
「ありがとう。…せっかくだから今付けてみようかな」
取り出したプレゼントを耳に宛がうと、素早く長次が鏡を貸してくれた。
どこまでも気の付く素晴らしい彼氏だ。
ほんとに私とは似ても似つかない。
両耳に付けて彼へと向き直る。
「…どう?」
感想を求めれば、頷き、優しい声で似合うと言ってくれた。
私は一発でこのプレゼントを気にいったのだった。
「…もう一つ、あげたいものがある」
そう長次が言ったのはその直後だった。
「なに?」
もうこれ以上何かもらっては申し訳ないと思いながらも、しかし、拒否するのも悪い気がしていると、
「目…つぶって…」
とりあえず言われた通り目をつぶって彼の行動を待つ。
「ひめ…好きだ…」
そっと彼の唇が私の唇に触れた。
三つめのプレゼントは、長次からのキスだった。
彼からしてくれるのは、今夜が初めてのこと。
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劇場艇プリマビスタの新山ちづるさんより
ツイッタータグにてリクエストしたものです。
山下達郎さんの「夢を描いて-LET'S KISS THE SUN-」がイメージソングとのことでした
この曲を聴いてから改めて読むとまた惚れ直しそう…!
素敵な作品をありがとうございました
20121201
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