「あぁもう、文次郎の馬鹿…!」

「馬鹿とはなんだ、バカタレが…!」


私の彼は父親みたいな人だ。
見た目も性格も。
見た目は同じ15歳には見えないほど貫禄があるし、性格は私のすることなすこと全てに干渉してくるし。
こないだだって、徹夜漬けで疲れているだろう会計委員会のメンバーにおにぎりを差し入れしたら。

『こいつらを甘やかすな。お前はさっさと寝ろ。』

とギンギンに隈のできた目で説教してきて。
さっさと寝るべきなのはあんたでしょ、
と反論しようとしたけど、彼をそれ以上怒らせると下級生にまで影響を与えてしまうことになるから、ぐっとこらえておにぎりだけ置いて出ていった。
次の日に三木くんから

『あれは照れ隠しなんですよ。』

とフォローを入れられたけど、文次郎が照れるなんてまず考えられないことで。
そう考えると私は後輩にまで気を遣われているのかと情けなくなってしまったのだ。2人そろって後輩に気を遣わせる先輩ってどうなんだろうか。

文次郎の説教はそれだけじゃない。こないだ久々に街へ出掛けた時もそうだ。
久々のデートだったから可愛い着物を着て髪だってタカ丸に頼んで綺麗にセットしてもらって。
文次郎に少しでも可愛いと思われたくてがんばったのに。

『なんというか、お前らしくねぇな。』

その一言のみだった。
私らしくないということはつまり似合ってないということですか、そうですか。
まぁ、恋愛事に無関心で鈍感な文次郎から可愛いと言ってもらえるとは思ってなかったけど、印象違うな、とか、似合ってるな、とかそういう誉め言葉を期待していたから。言われた時のショックは大きかった。
だけど、その時だって彼の機嫌を損ねてデート取り止めになんてなったらそれこそショックだから、ぐっとこらえた。
文次郎と少しでも一緒にいたかったから我慢したのだ。
でも、その怒りを自分の中だけに留めることはできなくて。デートの感想を聞きにきたタカ丸に愚痴ってしまった。
タカ丸は

『きっと文次郎くん妬いちゃったんだよ、僕がひめちゃんの髪の毛触っちゃったから。』

愛されてるね。と気休めの言葉をもらったけど。文次郎が私のことで嫉妬するなんてことあり得ないし、愛されている自覚もないし。
こうしてまた他の他人に気を遣わせてしまった自分が情けなくなった。


こんなことがたくさん続いて。
その度に私はなんで文次郎を好きになったんだろうと思うのだけど。


「無理させて悪かったな。」

「……知らない。」

「お前は疲れるとすぐに後ろ向きの考えをするようになるから。」

「だったら、なんとかしてよ。」


悪態をつく私の頭をそっと撫でてくれる優しさが妙に心地よくて。



「俺はちゃんとお前を見ている。無理してでもやり遂げようとするところ、苦しくても我慢して耐えているところ。お前はよくがんばっている。」


涙を流す私の頬に手を伸ばし、零れた涙を拭ってくれる大きな手が頼もしくて。



「見てるなら、ちゃんと…ちゃんと……!」

「俺が口下手でこういうのに馴れてねぇから、ついお前にきつくあたっちまうんだよな。悪かった。バカタレは俺の方だよな。」


申し訳なさそうに眉を下げるその表情が少しだけ可愛いらしくて。



「そんなこと言われたら、嫌いになんかないでしょ…!」

「俺だって嫌われるのは御免だ。」

「だったら、これから優しくしてよ……ね。」

「あぁ、わかってる。」


私だけに見せる穏やかな笑顔がたまらなく愛しくて。



「なぁ、ひめ…。」


低い声で名前を呼ばれる、ただそれだけで心が暖かくなって。



「あぁもう、文次郎の馬鹿…!」

「馬鹿とはなんだ、バカタレが…!」


照れ隠しで悪口を言ってしまう私は、またしても父親彼氏から説教をくらうことになるのです。









ひねくれ者でごめんなさい

(ひめ先輩がいらっしゃる時は少しだけ空気が柔らかくなるんですよ、潮江先輩)
(僕、あの日から文次郎くんに睨まれるようになったんだけど…)
((なんだかんだでお似合いなんだよなぁ))



*----------*
新山ちづるさんへ。
ツイッタータグ140字の贈り物を長めにして内容も一部改変しました。
この文次郎は彼氏としては少しばかり堅すぎるんじゃ…と思うけど、好きなのです。



20121125



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -