「しらゆきさんとお話しできてよかったなぁ。」


放課後、本の貸出係だった僕。
気になっている彼女が本の貸出にやってきたので、その本について少しだけお話しできた。たまたま中在家先輩もいらっしゃらなくて他の利用者もいなかったからだ。
彼女が去ってから少し経って、今日のもう一人の担当だったきり丸と一緒に戸締まりをして、今日の委員会は終了した。
ちょうど夕食前の時間だったから、そのまま食堂へと足を進めた……のだが。


「あ、れ、は………。」


いざ食堂に向かえば、いきなり飛び込んできた光景。
彼女が忍たまと一緒に夕食を食べている。おまけに上級生。服の色からして六年生。おそらく、噂のあの先輩だろう。
先輩の顔は見えないが、彼女は満面の笑みを浮かべている。


「やっぱり……なぁ。」


三郎はただの噂だと言っていたけど、やはりこの光景を見てしまうと噂は本当なのではないかと思ってしまう。ちょっぴり胸が痛かった。


「おーい、雷蔵。こっちこっち。」

「え?」


名前を呼ばれたので、声のするほうを向けば、僕に手を振る同級生、ハチだった。
席をとってくれていたのだろう。


「ハチ、ちょっと待って。今日のおかずは…『おばちゃん、B定食2つ。』…三郎!」


待ってくれている友達のためにも早くおかずを選らばなければ。と思いつつも迷い癖が現れようとしたその時。後ろから聞こえなれている声、三郎だ。


「今日は魚にすればいい。昨日は肉だったしな?」

「あーうん、そうだね。ありがとう。」

「はいよ、B定食2つね。」


今日は三郎のおかげで早く定食を決めることができた。決めたっていうより、三郎が決めてくれたって感じだけど。
おばちゃんは手際よく定食を準備し、僕達はそれを受け取って、ハチ達のいる席へと向かった。


「やっほー。雷蔵三郎。」

「雷蔵、なんで豆腐のあるA定食にしなかったんだ。」

「今日は早かったんだな、委員会。」


三人ともバラバラのことを言い出す。とりあえず、勘ちゃんには笑って返して、兵助は無視。ハチには他に利用者がいなかったことを話した。


「……あ、」


席につくと、視線の先にはしらゆきさんの姿。そしてそのしらゆきさんの向かいに座る六年生の背中。
しらゆきさんはにこにこしながら夕食を食べていて、楽しそうなのはすぐにわかった。仲睦まじい様子にため息がこぼれる。噂は知っているけれど、いざ目の前にするとショックは大きかった。


「あれ?雷蔵どうした?ため息なんかついちゃって…」

「あー、うん。」

「なんだ?雷蔵なにか迷っているのか?」

「別に迷ってるわけじゃないよ。」

「元気だせよ、ほら。これやるから。」

「あ、ありがとう。」


元気のない僕を心配したのか勘ちゃんと兵助は不安気な顔をして訊いてきて、ハチはおかずを僕のお皿にのせて励ましてくれている。本当、みんなには申し訳ないな。


「雷蔵は恋の病を患ってるんだよ。」

「ちょっと三郎!」


今日の三郎は静かだなぁと思っていたけど、それは気のせいだったようだ。ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべている。
三郎の言葉を3人が流すはずもなく。


「えっ!恋っ!?」

「相手って人間だよな…?」

「おほー!青春じゃねぇか!」


最近、面白いことがなくネタが切れていた彼らにとっては格好のネタ。3人とも身をのりだしてきた。ところで、兵助はなぜそんなことを訊いてきたのかわかんないんだけど…。「(だって、俺好きなの豆腐だし)」


「ちょっとみんな!静かに!」

「で、誰なんだよ、相手は。」

「くのたま?んー誰かなぁ。可愛い系だよね?雷蔵なら。」

「かっ、可愛い系って…!な、なんでわか…違う!違うよ!」


確かにしらゆきさんは顔もすごく可愛いし、ほんわかした空気をまとっててちょっとドシなとこもあって性格もすごく可愛い。…って違う。こういうことを考えているバヤイではない。
僕は勘ちゃんの言葉を必死に否定する。


「俺は色の白い…本当、豆腐のように白くて肌が決め細やかな人がいい。」

「……兵助のは訊いてねぇよ。三郎、知ってんだろ?」


兵助の台詞はもう放っておくとして、ハチはなかなか答えようとしない僕にしびれをきたしたのか、三郎に問いかけた。


「ほら、あそこだ。」

「あっ、ちょっと!」


もちろんハチの問いに答えないはずがなく。三郎はニヤリと笑ってしらゆきさんのいる方向を指さした。あぁもうだめだ、隠しきれない…。僕はため息をついた。


「あれって、しらゆきじゃねぇか。」

「え、ハチ知り合い?」

「あぁ。アイツ、虫が平気みたいでさ、たまに委員会の仕事手伝ってくれんだよ。」


くの一にしては良い奴だと思う。
ハチは笑って、食事を再開した。ハチと知り合いだったとは思わなかったけど、彼女の新たな一面が見れて嬉しかった。ハチの方が僕よりも親しいのかなと思うと少し胸が痛むけど。


「しらゆきさんかぁ。関わったことないな。どんな子なの?」

「可愛い子だよ!とっても!それに周りの人に親切で、下級生からは慕われてるし、人懐っこい笑顔をするんだ。ちょっとドシなところもあるけど、努力家で」

「わかったよ、うん。雷蔵が相当惚れてるってのはわかった。」


彼女のことを話せば、最初は興味津々といった様子で聞いていた勘ちゃんだったけど、途中から勘ちゃんは苦笑を浮かべるようになった。彼女のいいところはまだあるのに。


「でもさ、確かしらゆきって食満先輩と付き合ってるんじゃなかったか?」


豆腐を頬張る兵助からの一言。
僕は笑顔がひきつった。現に僕はそのことで悩んでいたからだ。


「…空気読め、兵助。」

「いや、だってさ、現に一緒にご飯食べてるし。」


豆腐から彼女へと視線を向ける兵助。
彼女は先ほどと変わらず食満先輩と談笑を続けている。素の笑顔というか、心から楽しんでいる時の笑顔を浮かべていて、それを見ていると僕なんて入り込む隙間はないのではないかと感じてしまう。


「食満先輩とは付き合ってないって言ってたぜ?これ、本人から聞いたから確実。」


だから頑張れよ、雷蔵。
と肩をポンと叩くハチ。あの噂が信実ではないことがわかり、僕の心は軽くなった。
ハチとしらゆきさんがそんなことを話すような間柄なのかな、と気になったけど、そのおかげでひと安心つけたのだから、深く考えないようにした。(なんだか僕、ハチにヤキモチ焼いてるみたいだなぁ)


「だから言っただろう?単なる噂だって。」

「だけどさ、食満先輩は明らかに気がある感じするよね。」

「……うっ」


勘ちゃんの言う通り、食満先輩は多分、いや絶対、しらゆきさんに特別な感情を抱いていると思う。面倒見のいい食満先輩は基本的に誰にでも親切で、下級生にも慕われている。けれど、食満先輩のしらゆきさんとの接し方は特別なのだ。時々しか見ないけれど、しらゆきさんと話している時の先輩の表情は誰の時よりも穏やかで慈愛に満ちている気がするのだ。


「三郎の顔見ると、良い考えでもあるようだな。」

「鋭いな。さすがは兵助。」


得意気な顔をしている三郎に兵助がそのわけに気がついたようだ。
兵助は空気は読めないけど、観察力はあるのだ。


「なになに?雷蔵はもう教えてもらったんでしょ?教えてよ。」

「あーうん、しらゆきさんを追い回せって言われた。」

「「………」」


勘ちゃんも気になったようで、僕に尋ねてきた。僕が答えると、兵助も勘ちゃんも固まってしまった。なにか僕はマズイことでも言ったのだろうか。ただ、三郎に言われたことをそのまま告げただけなのに。
理由がわからなくて僕は首をかしげた。


「ストーカーしろっていう意味じゃないからな!誤解するなよ!」

「わかってるよ……一応。」

「あぁ、さすがに雷蔵も付きまとったりはしない……よな。」


勘ちゃんと兵助が苦笑いしながら、僕に同意を求めてきた。もちろん、ストーカーなんてそんなしらゆきさんが嫌がるようなことをするつもりは更々ない。僕はゆっくり頷いた。


「当たり前じゃないか。彼女の嫌がることはしないよ。」

「さすが雷蔵だな。応援するぞ。」


ハチは笑うと、勘ちゃんも兵助も「俺も応援してる」と言ってくれて嬉しくなった。
(ハチ、さっきはヤキモチ焼いてごめん)
僕はありがとうと返事をして、食事を再開した。少し長話してしまったかもしれない。あれだけ賑わっていた食堂も気がついたら人が少なくなっていた。


「早く食べなきゃ。」


今日の授業で明日までの課題を出されたので、今日の夜はゆっくり過ごす余裕はないのだ。
僕が黙々と箸を進めている間に他の4人は別の話をしていた。
しらゆきさんは変わらず食満先輩と談笑をしていて、顔も笑顔だった。一体どんな話をしているんだろう、僕もあんな風にお話しできたらいいのに。と思っていたら。


「…………あ、」


視線に気がついたのか、しらゆきさんと目があってしまった。
見すぎて不快に思われたらどうしよう。しらゆきさんの反応が怖かった。
しかし、しらゆきさんはニコリと笑顔を向けてくれた。食満先輩に気づかれないか少しだけヒヤヒヤしたけれど、食満先輩もたまたま彼女から視線を外していたようで、僕に向けられていたことは気がつかなかったみたいだ。
僕もしらゆきさんに笑顔を返す。


「ん?雷蔵、どうしたんだ?」

「あ、いやなんでもないよ。」


三郎に話しかけられ、しらゆきさんから視線を外した。今のことを話すとめんどくさそうなので、僕は適当に流して三郎達の会話に入った。
その少し後ぐらいにしらゆきさんは食器を片付けて食満先輩と食堂からでていってしまった。
夜はあまり出歩く女の子はいないので、きっと今日の内に彼女に会うことはないだろう。


「また、明日会えるといいな。」


明日の授業はなんだっただろうか。
会えるとしたら空き時間、昼休み、放課後だ。
僕は明日の予定を思い浮かべながら、彼女と会える時間を考えていた。
会えないなら、会いにいけばいいのか。と結論がでるのにそう時間はかからなかった。応援してくれるみんなのためにも、積極的に彼女に関わっていこう。僕はそう決意した。









願わくは君の隣に

(食満先輩には負けない)(ハチ以上に仲良くなる)




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見せつけてくる食満と決意した雷蔵の話
次はヒロインさん視点になる…かなぁ



20120924



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