!現代パロディ


「雷蔵くん、ここの問いなんだけど…。」

「ん?…あぁ、そこはね、」


問題集を指さしながら、ひめちゃんは僕に尋ねてきた。僕は指された箇所の問いについてわかる範囲で解説をする。
ひめちゃんと僕は一週間後に控えた実力テストに向けて一緒に勉強していた。
すでに図書館の自習室は全席埋まってしまっていたので、どこか別の場所を…と考えた時に、どちらかの家でやろうということになり、学校から近い僕の家になった。
お向かいにひめちゃんが座って、それぞれ別々に問題を解いていた。そして、わからないところは互いに聞き合うというスタイルで勉強をしている。


「…あ、これ、助動詞だったんだ。」

「うん。ここの意味がわからないと解けない形にしてあるからややこしいよね。」


理系のひめちゃんは文系科目に苦戦しているようで、毎回ひっかかるのは特に古典の文法だった。文系の僕はもちろん文系科目は得意なので、ひめちゃんがお手上げの時は僕が解説するようになっている。逆に僕は理系科目が苦手なので、それらの科目ではひめちゃんに解説をお願いしている。互いに苦手なところは補いあうことで、僕たちの成績は少しずつ良くなってきている。


「うー、やっぱり古典難しいなぁ。」

「ちょっと疲れたね、休憩しようか?」


どちらも区切りのよいところだし、勉強を始めて2時間は経っているし、ここで一息入れて脳を休ませた方が良いかもしれない。
僕の提案にひめちゃんは頷き、手を上に上げてノビをした。ウーンという、ひめちゃんの何気ない声になんだか色っぽさを感じて変な気分になった。今日のひめちゃんの格好も、胸元が少しだけ開いているような気がして、自然と視線がそちらに向いてしまう。
僕は一体何を考えているんだ。


「僕、飲み物とってくるね。」

「あ、ごめんね。ありがとう。」


変な方向へ向かおうとする思考を遮断するために、僕は飲み物を取りに部屋を出た。
確か、お茶葉が台所にあったはずだ。
実際台所へ向かえば棚の上にお茶葉が置いてあったので、やかんに水を入れてお湯を沸かす。なにか食べるものはないかと戸棚を開けてみれば、ちょっとしたお菓子も発見した。
10分ほどでお茶が用意できたので、僕は2人分の湯飲みと急須、お菓子をお盆にのせて自室へと向かった。


「遅くなってごめ……!」


ガチャリと扉を開けて、飛び込んできた光景に僕は動揺した。
ひめちゃんが、床の上に寝転がっていたのだ。クッションを抱えて横向きに転がっている。


「…ひめ、ちゃん……?」


とりあえず、机の上にお盆を置き、ひめちゃんに声をかける。しかし、返事はなく。
聞こえてくるのは寝息だった。どうやら疲れて眠ってしまったらしい。
最近は放課後だけじゃなくて休日もこうして僕と一緒に勉強しているのだから、疲れが溜まっていたのだろう。それに頑張り屋なひめちゃんのことだ、きっと無理をしていたに違いない。
起こさないようにそっと自分のところに座った。


「可愛い寝顔だなぁ。」


好きな女の子の寝顔なんてそうそう見られるものではない。ひめちゃんの寝顔は可愛くて、微笑ましくなった。うん、可愛い。
ずっと見ているのも失礼かな、と思い、顔から少し視線をずらした。
そして、また、意識もしないまま、視線は胸元にいっていた。クッションを抱える胸元は服が少しだけ浮き上がっていて、際どいところまで見えてしまっていた。チラリと覗く、ひめちゃんの柔らかそうな胸。
更に視線をずらせば、短めなスカートからすらりとのびる白い脚。僕はゴクリと生唾を飲んだ。
お茶を入れる前に浮かんだあの思考が再び僕の脳を支配する。
可愛い彼女が、自分の部屋で、無防備に、眠っている。
思春期真っ盛りな僕の思考は止められなかった。


「柔らかそう…だな。」


付き合って数ヶ月経つのにまだキスもしていない僕たち。興味がないわけではないし、ひめちゃんとならなんでもしたいと思う。
けれど、急ぎたくないという気持ちもあって。僕らのペースで進んでいこうとひめちゃんと決めたばかりだというのに。
あの可愛いらしい唇に触れたらどんな気持ちになるのだろう。これ以上見ていたら理性が本能に負けてしまいそうだった。


「…男ってやっかいだなぁ。」


こんなにも簡単に理性が負けてしまいそうになるなんて。
僕はため息をついた。


「……ん、ここ………」

「おはよう、ひめちゃん。」

「ら、いぞう……くん?……あっ!」


ひめちゃんが眠りから目覚めたようだ。
最初はとろんとしていた瞳も次第に状況が把握できたようで。
僕の挨拶で覚醒しきった彼女は「ごめんね」と何度も謝ってきた。居眠りしてしまったことにそんなに罪悪感を抱いてしまうなんて本当にひめちゃんは真面目な良い子だと思う。
むしろ謝るのは僕の方なのに。


「謝らないで。疲れてたんだよね?」

「あー、うん。でも、眠れたし、これからは大丈夫だよ!」


少しの時間ではあったけど、眠ったことで脳も休憩ができただろう。
ひめちゃんは机の上にあるお盆に目を向け、「お茶ありがとう。」と言って急須から2人分のお茶を注ぐ。


「僕もごめんね。」

「…え?」

「なんでもないよ。お菓子ももってきたから食べよう?」


脳にも栄養あげなきゃいけないしね。
お菓子を1つひめちゃんに差し出す。脳にとっては糖分が栄養になるのだ。
ひめちゃんは笑顔でお菓子を受け取り、そのまま袋を開けて口へと運んだ。
ひめちゃんの口元に目線が向いては、浮かんでくるのはあのことばかり。触れてみたい、その柔らかな唇に。


「(ダメダメ、僕たちのペースで進んでいくんだから)」


思考を振り切るかのように僕は首を横に振る。
そして、ひめちゃんの注いでくれたお茶を口に入れた。熱かったお茶はぬるくなっていた。
僕の熱もはやく冷めてしまえばいいのに。










不埒なことがしたいな

(きみとなら、もっともっと色んなことをしたいよ)




*---------*
思春期雷蔵ということで。
どこでもあるネタだけど、悶々する雷蔵も可愛いと思うんだ。


Title:【capriccio】様
20120918




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