!死ネタです、苦手な方はリターン





「明日、任務に行ってくる。」


他愛のない会話の中で、三郎は一言告げた。
お隣さんがどうだとかお野菜が安かったとか、そんな日常的な話の中にポツリとつぶやいた。


「…どれくらいになるの?」


三郎は忍術学園を卒業してから、どこの城にもつかず、フリーとして生計を立てていた。
三郎が依頼される仕事のほとんどは、仕事は変装を使って敵方の城へ侵入し、情報収集や依頼品の奪還などを行うものだった。三郎は変装の達人であるから、その仕事がもっとも適しているように思える。それに報酬も高い。が、リスクもまた高いのだ。
私は、忍術学園にいるころから三郎と付き合っていて、卒業と同時に結婚した。そして、三郎は忍者として私は主婦として3年ほど夫婦として生活してきた。
今回の任務もきっと、いつものようなものだろう。しかし、忍者は仕事の内容は口にしてはならないもの。それは家族でも、だ。
それがわかっているので、私は任務の日数を尋ねた。日数がわかればどのような任務なのかもだいたいは把握できるから。


「…まぁ、3週間ぐらいだろうか。」

「…そう。」


いつもならはっきりと答える三郎だが、今回は少しばかり曖昧な返答であった。
やっかいな任務なのだろうか。
忍者はいつ死ぬかわからない。忍術学園でそう教えられた。忍者をしている三郎もまたいつ死ぬかわからない。
私は三郎が任務に出る度に不安になるのだ。
そして、その度に三郎が私を茶化して、気を紛らわせてくれる。私は思っていることが表情にでやすいらしい。
今回もまたそうだったのだろう。


「また不安なのか?私のお嫁さんは。まったく、お前は昔から変わらないな。」


三郎は私を茶化した。目を細めて口の端を上げる、あの意地悪な笑みを浮かべて。昔から変わらない笑み。


「私がいなくて寂しいだろうが、浮気なんてものは考えるなよ。まぁ、お前にそんな器用なことができるとは思えないが。」

「……なっ!」

「お前は私しか愛せないのだからな。」


そうだろ?
三郎は私の頭をなでた。反論しようとするも、三郎の言っていることは事実なので私は何も言えなかった。
好きになったその時から私はずっと三郎しか見えていないのだ。三郎はそれを分かっている。


「…三郎の意地悪も変わらないよね。」

「ほう、どの口がそんなことを言うんだ?」


三郎の指が私の唇に触れる。三郎に触れられるのはいつまでたっても慣れないもので。私はビクリと身体を震わせた。
その反応がさらに三郎をあおることになるのに。


「…そろそろ、寝るか。」


三郎の言葉に私は無言で頷いた。この言葉の裏に隠された意味を理解した上で、私は頷いた。
私は立ち上がり、隣の部屋に行って布団を出した。1つだけ。


「…わかってるじゃないか。」

「何年付き合ってると思ってるの?」

「…もう忘れた。」


私の問いにはっきり答えないまま、三郎は私の手をひいた。
バタリと布団に倒され、三郎が覆い被さる。


「…ひめ、愛してる。」


そういって三郎はいつものように唇を重ねた。
いつもなら私も「愛してる」と三郎に返すのだけど、今日は口づけに違和感を感じて黙り込んでしまった。
幸せな気持ちになれるはずなのに、なぜだろう。
いつもより優しいけれど、どこか荒っぽい感じもする口づけ。いつも、とちがう味。


「…ねぇ、三郎。」

「……なにも言うな。今夜はお前をしっかりと刻んでおきたいんだ。」


三郎はまた口づけをした。さきほど感じた違和感は大きくなった。
そして、込められた意味も伝わってきた。三郎との口づけが辛い。悲しい。苦しい。
唇が離れ、顔を離す三郎。その時、頬に生暖かい何かが降ってきた。
三郎の涙だった。


「…頼む、何も言わないでくれ。なぁ、頼む。何も言いたくないんだ、私は。」

「…さ、ぶろ……」


暗闇でもはっきり見えるはずの三郎の顔が、ゆがんでみえた。
目尻から流れ、布団に染みこんでいく、私の涙。
三郎の涙もまた、私の頬を濡らしていく。


「…しっかり、抱いて、ね。」


これからも三郎のぬくもりを思い出せるように。三郎が、いなくなってしまっても、ずっと。
三郎はまたいつもの意地悪な顔をして答えた。


「わかってる。」


いつもと変わらない、昔となにひとつ変わらない笑み。ずっと見てきた三郎の顔。
辛いけれど、泣いている時間ではない。今を、三郎といれる時間を大切に過ごさなければならないのだ。
私は涙をぬぐって三郎に笑顔を向けた。


「三郎、愛してるよ。これからも、ずっと。」

「私もだ、ひめ。」


三郎も笑った。少し意地悪で、でも優しい彼の笑顔。私の大好きな笑顔だ。
そして三郎は私に口づけた。今までで一番優しい口づけだった。










さよならの味がした

(何年付き合ってると思ってるの?)(全部わかってるんだから)






*----------*
生還は難しいとても危険な任務につくことになった三郎。
なんだかシリアスが書きたくなったもので…。
死ネタは辛いですね。読むのも書くのも辛いです。


Title:【capriccio】様
20120917



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