!現代パロディ


「"手作り弁当で彼の心をゲット!"…かぁ。」


お昼休み。
お弁当を食べ終わった私は、午後の授業が始まるまでとある雑誌を読んでいた。
私の好きな俳優さんが表紙を飾っていて、今週末に公開される彼の主演映画の特集が組まれている雑誌。
学校へ行く途中のコンビニで見つけて、その時の勢いで購入したものだ。
特集ページをたっぷりと堪能した後、時間潰しのため他のページを眺めていると、ふと目にとまった恋愛テクニック云々のページ。手作り弁当という言葉が心にひっかかった。


「…ん?手作り弁当がどうした?」


私の向かいの席で本を読んでいたかすが。私の独り言に反応し、本を机の上に置いて私に尋ねてきた。
いつもはお昼休みが終わるまで読書をしているので、大切な彼女の時間を邪魔してしまったようで申し訳ない気持ちになる。私は質問に答えず、そのことを謝った。


「ごめんね、読書の邪魔して。ただの独り言なの。」

「いや、別にいい。それよりも手作り弁当がどうしたんだ?」

「え、えっと、コレなんだけど…。」


しかしかすがは気にしていないようで。
私がかすがに雑誌を見せると、「なになに…」かすがは雑誌に視線を落として記事を読み始めた。


「手作り弁当ってやっぱり嬉しいのかなぁ。」

「私に場合は…謙信様にお渡ししたら、『ありがとうございます、かすが。とてもうれしいですよ。』と美しいお顔でおっしゃられたんだ。その上なんと一緒に食べないかと食事にまで誘われて…!あの時の謙信さまはとてm『…うん、わかった。効果は絶大ってことだね。』…そういうことだ。」


ナチュラルに惚気るかすが。これが通常運転なのだけど。
かすがは上杉先生とお付き合いしていて、先生のことをとても愛してる。そして上杉先生もまたかすがのことを大切にしている。
現在絶賛片想い中の私にとって2人の関係がうらやましくてならなかった。


「ひめも作って渡したらどうだ?」

「…え!?む、無理だよ!」


ニヤリと笑って提案してくるかすがに、私は全力で否定した。
料理は得意な方ではないし、そもそも彼に渡す勇気なんて私は持ち合わせていない。技術も勇気もないのだ。


「喜ぶと思うぞ、アイツは。」

「……わかんないよ。いくら優しい佐助くんでも、好きでもない女の子からおいしくもないお弁当を食べさせられたらさすがに機嫌悪くするよ。」


私の片想いの相手、猿飛佐助くんはとても優しい人である。出会いは高校に入学してからであるけれど、彼にはいつも助けてもらっている。高いところにある物を代わりにとってくれたり重いモノを運んでくれたり、勉強でわからないところを聞いたら丁寧に教えてくれるし。私が困っていると、どこからか駆けつけて声をかけてくれる。そんな彼の優しさに私は惚れたのだ。いや、もちろん、そこだけじゃなくって、面倒見がいいとことか飄々としている雰囲気だとか時たま真剣になる表情とか低めで心地よい声だとか。彼のすべてに惚れているのだけど。
…話を戻そう。
佐助くんは私によくしてくれるけど、きっとそれは私がかすがの友達だからよくしてくれているのだと思う。
悪い印象は持たれていないと思うけど、恋愛的な意味合いで私のことをどう思っているかはわからない。彼の優しさは友愛的なものに感じる。


「アイツはお前のこと好いていると思うが。」

「うーん、まあ嫌われてはいないと思うんだけどね。それに、ほら、佐助くんお料理上手だから。」


佐助くんは料理がとても上手だ。
武田先生の家に下宿している佐助くんは、面倒見の良さから下宿生のみならず先生の食事まで三食すべて作っているらしい。
確かに調理実習の時の佐助くんの包丁さばきは美しかったし、2つの料理を要領よく調理していたのをみて、その噂は本当であると確信した。
そんな料理上手な彼にお弁当なんて渡せるはずがない。まして私は料理が得意な方ではない。彼の中の私の評価を落としてしまうのは確実だ。


「ひめだって十分上手いじゃないか。こないだのクッキーはとてもおいしかった。」

「本当!?よかった、また作るね!…あ、チャイム。」


料理は得意ではないが、お菓子作りは好きだ。時間があればちょこちょこ作っては友達に配っている。
私はかすがの"おいしかった"という評価が嬉しくて、お弁当の話題も忘れて次は何を作ろうと考え始めてしまった。そして、そうこう考える内に昼休み終了を告げるチャイムが校内に響く。
私とかすがはお弁当を片付けて、自分の教室に戻った。


「真田くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」

「しらゆき殿。なんでござるか?」


午後の授業も終わり、残すところもSHRのみ。まだ担任が教室にやってこないため、近くの席の人と談笑をしている人が教室内はにぎやかだった。
私は、隣の席の真田くんに声をかけた。昼休みに話したお弁当のことが気になったのだ。


「あのさ、佐助くんのお料理ってやっぱりおいしい?」

「佐助の料理…?佐助の料理の腕は達人レベルだからな、とてもおいしいでござるよ。」

「そっかぁ。」


真田くんも佐助くん同様、武田先生の家に下宿しているので、いつも佐助くんの手料理を食べていることになる。(…少しうらやましい)
なので、真田くんの評価を聞けば佐助くんの料理の腕もわかる気がしたのだ。実際、真田くんの評価は上々で、それほど佐助くんの料理の腕が上であるということがわかる。味にうるさそうな真田くんがこの評価であったら…。一体佐助くんはどこまで完ペキなんだろうか。なに1つ秀でたところもない自分がそこまで完ペキな人に恋するなんて身分違いもいいところだ。そうはわかっていたけれど、改めてその事実をつきつけられるとショックも大きい。


「男の子って、好きな女の子から手作りのお弁当もらえると嬉しいのかな…?」

「す、すすす好きなおなご…!?は、破廉恥!」


ポロリと口に出してしまった質問。
しかし、私は聞く相手を間違えたようだ。初心な真田くんは恋愛話になると破廉恥!といって騒ぎ出してしまうのだ。
現にいまがその状態。真田くんはあわあわと口を動かし、慌てている。
予想以上に真田くんの声が大きかったので、周りの人に聞かれているのではないか、と思い周囲を見渡した。
しかし、近くの人は「なんだ、またか」といった様子で真田くんを一度見ただけで、席が離れている人は聞こえていなかったのか、こちらに視線をむけている人はいなかった。
佐助くんには聞かれていないかと心配したが、彼と席は離れているのでその心配はいらなかったようだ。佐助くんを見れば、近くの席の伊達くんとお話している。


「なになに?恋の話?俺にも聞かせてくれよ。」

ほっと一息つくと同時に後ろの席の慶次くんから声をかけられた。真田くんの慌てようを見て、恋の話だとわかったらしい。恋愛話は慶次くんの方が得意そうなので、真田くんには悪いが、そのまま相談することにした。


「えっと…、慶次くんは女の子から手作りのお弁当もらえたら嬉しい?」

「そりゃもちろん。」

「それじゃあ、明らかに自分の作るものよりもおいしくなかったら?」

「味は関係ないさ。その子が自分のためだけに作ってきてくれたんだから、それほど嬉しいことはないよ。」


慶次くんはニカッと笑って答えた。
さすがは恋の伝道師。慶次くんの回答を聞いて、少しだけ安心した。
でも、お弁当を渡そうという気持ちまではいかなかった。


「そんなこと訊くっつうことは、ひめちゃんもしかして誰かに弁当作る気かい?」

「ち、違うよ!そ、その、雑誌にそういうことが書いてあったらから気になっただけで!好きな人に渡そうとかそういうことは考えてないよ、全然!」


慶次くんの指摘に図星ではあったけど、それを肯定するのは恥ずかしくて私は必死に否定した。
でも、その必死さが逆に裏目にでたようで、慶次くんは「わかった、わかった」といいながら、笑っていた。完全に気づかれている。穴があったら入りたい気分だ。
私は慶次くんから目をそらした。すると慶次くんが私の耳元で話しかけてきた。


「誰に、とまでは訊かないからさ。本当は作る気なんでしょ?」

「…作るかどうかはわからないけど、気になっている…って感じかな。」


観念した私は正直に慶次くんに話した。
みんなに聞かれないように(特に真田くん)声のボリュームを抑えて話しかけてくれる慶次くんの優しさが嬉しかった。


「好きな人ね、すごく料理が上手なの。」

「へぇ。それで2つ目の質問をしたわけか。」

「料理下手っていい印象もてないでしょ…?」

「俺は一生懸命で可愛いと思うけどなぁ。ひめちゃんみたいな可愛い女の子が一生懸命作ってくれるんでしょ?嬉しいよ。」

「もう、そういうこと言う!」


サラリと慶次くんは女の子を喜ばせる台詞を言うから油断できない。
きっと慶次くんのことだから本心からそう言っているのだろうけど、言われた側からすれば恥ずかしくて顔が熱くなってしまう。


「じゃあさ、明日俺にお弁当作ってきてよ。」

「…え?」

「俺がひめちゃんの料理の腕、評価してあげる。俺もまつ姉ぇちゃんのうまい料理食ってるから、舌は肥えてる方だし。」


料理上手な彼とは似たような評価できると思うぜ。
慶次くんの提案には動揺したが、確かにそうだ。慶次くんは家庭科の先生であるまつ先生の料理をいつも食べている。そのことを考えれば、いきなり佐助くんにお弁当を渡すよりも慶次くんの評価をもらってから渡す方が良いのではないか。
慶次くんを利用するようで悪いが、この提案に乗ろうと思う。


「…いいの?私、料理下手だよ?」

「いいって。俺がひめちゃんの料理食べたいんだから。」

「お腹こわしても責任とれないよ?」

「大丈夫。言ったろ?俺は作ってもらえるだけで嬉しいんだから、さ。」


慶次くんの言葉に後押しされて、私は慶次くんにお弁当を作ることにした。
相変わらず慶次くんの台詞は恥ずかしいけれど、せっかく協力してもらえるのだから目線をそらすのは失礼だろう。
いつも自分用にお弁当は作っているけれど、あくまで自分用。食べるのは自分だから〜と思って手を抜いているところがあるけれど、明日は人に食べさせるお弁当を作ることになるのだ。気合いをいれて作らなければ…!


「慶次くん、なにが好き?食べたいものがあったら入れ…『ダメ、却下。』……え?」


割り込んでくる声。
それは、慶次くんではなくって恋い焦がれている人の声だった。聞き間違いだろうか…。顔を上げれば、私の前には本当に佐助くんがいた。一体どういうことだ、なんで佐助くんが目の前に…?予想外の出来事に私の頭はすぐに対応できるはずもなく、私はかなり動揺してしまった。


「ひめちゃんの弁当は俺様が食べる。前田の旦那なんかには食わせない。」

「え…?あの、佐助くん…?」

「お前にどうこう言われる筋合いはないな。ひめちゃんは、俺のために弁当作ってくれるんだから。」

「ちょ、慶次くん…?」


私の言葉が聞こえていないのか、佐助くんと慶次くんは2人だけで会話を進めてしまっている。
間に挟まれた私は一体どうすればいいのか…。私はうろたえてしまって「あの、えっと、その」という言葉しかでてこなかった。


「……俺様とやろうっての?」

「…まさか。怖い怖い、男の嫉妬ってやつは。」


悪いけどさっきの取り消しな!
慶次くんは佐助くんから目をそらし、苦笑いをして私に謝ってきた。さっきの、というのはきっとお弁当の件だろう。
私はどうしてよいかわからず、とりあえず、ぶんぶんと首を縦に振った。
そして、何も言葉を発しない佐助くんが気になって、彼に視線を向けようとしたその時、ガラリと教室のドアが開いた。
担任である。ざわついていた教室も静かになり、席を離れていた人はすぐに自分の席へ戻っていった。もちろん、佐助くんもその一人で。


「後で話があるから。」


私に一言告げて自分の席に戻っていった。
ようやく落ち着いた雰囲気でSHRは始まった。先生は淡々と連絡事項と伝え、すぐに終わってしまった。
さよならの号令後、教室内はまたさわがしくなった。私は佐助くんのことが気になって気になって、心臓のドキドキが止まらなかった。これから私はどうしたらいいのだろう。
話があるとは、どんなことなのだろう。佐助くんは心なしか不機嫌そうだったし、なにか怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。どうしよう佐助くんに嫌われてしまった。もしかしてお話というのは「もう俺様に関わらないで」というような内容なのでは…?
一度マイナスに考え出したら止まらない。不安が強くなり、嫌な汗が背中をつたう。


「…ひめちゃん、ちょっと来て。」

「ひっ…!」


いつの間に佐助くんはやってきたのか。
私は驚いて小さな悲鳴をあげた。しまった…!と焦って佐助くんを見たら、佐助くんの眉間のしわはさらに深くなっていて。
これはもう完全に怒らせてしまったと感じた。とりあえず、謝ることが先だと考え私はすぐに謝った。


「ご、ごめんね!怒らせるつもりはなくって…その、色々考えてたら佐助くんが来たことに気がつかなくって、それで驚いて…あの、本当にごめん!」


不安と焦りでしどろもどろだ。おまけに目のあたりが熱くなってきて、視界が少しずつぼやけていった。
このままでは泣いてしまう。私は涙を必死にこらえて佐助くんになおも謝る。泣いてしまったらさらに佐助くんの機嫌を損ねてしまう気がして。


「あ、あの、本当にごめ…ん。怒らせるつもりなく…って、その…ごめ……」

「…ごめん。泣かせるつもりはなかったんだ。」

「……っ!?」


声が震えて、私はもう何も言えなくなってしまった。でてくるのは嗚咽のみ。本格的に涙がでてきた。
これ以上ごまかしきれない…と覚悟したその時、佐助くんが声をあげた。それと同時に、引っ張られる身体。
佐助くんに抱きしめられている。


「え、あの、さ、佐助くん…!?」

「ごめん、本当に。怖かったよね、ごめんね。」


戸惑う私の頭をぽんぽんと優しくたたいて、その上背中をさすってくれる佐助くん。
佐助くんのぬくもりが優しくて、でもドキドキは止まらなくて。どうすることもできずに私はそのまま佐助くんにくっついていた。でも、涙はそう簡単には止まってくれなくて、自分の手で一生懸命涙をぬぐう。すると、佐助くんは私の頭を自分の胸に押しつけてきた。


「俺様が泣かせちゃったんだもん、責任取らせて?それに、」


ひめちゃんの泣き顔、他の男には見せたくないんだよね。
耳元でささやかれて、熱は一気に急上昇。もうわけがわからない。
頭は正常に働かないし、涙は止まらないし、ドキドキしっぱなしだし。


「ごめん、ね。」


彼の胸元を涙で濡らしてしまうことが申し訳なくて、ようやく紡げた謝罪の言葉。
あらかた不安感はなくなってきたので、そろそろ涙も収まってくるだろう。


「このまま聞いてほしいんだけど。」

「…ん?」


ドクドクと聞こえてくる心臓の音。私の音と速さはそう変わらない。
佐助くんもまた緊張しているのだろうか。
いつも冷静で飄々としている佐助くんがこんな風にドキドキさせていることが少し新鮮でほほえましくなった。


「ひめちゃんさ、俺様のこと好きじゃなかったの?」

「…え!?」


なぜ私の気持ちがバレている…!
佐助くん、カンがいいからもしかして前々から気づかれていたのかもしれない。私も思っていることが表情に出やすいタイプとよく言われるので、多分私との関わりを通して気づかれたのだろう。そう自覚した途端、とても恥ずかしくなった。
予想外のことに私は可愛い気もない声を出してしまったが、佐助くんは気にすることなく話を続けた。


「それなのに他の男にお弁当作ろうとしてるしさ、さすがに妬いちゃったよ。」

「…あ、いや、その、元は佐助くんに渡すつもり…だったんだけど……。」


元々は佐助くんに手作りのお弁当を、と考えていた。だけど、自分の料理の腕に自信がなくて、慶次くんが評価してくれるというからそのまま慶次くんの好意に甘えてしまったわけで。


「料理、あまりうまくなくって…」

「味なんて気にしないのに。」

「でも、佐助くんが作るものよりおいしくなきゃ嫌われると思ったから…」

「そんなことで嫌いになるはずないでしょ?」

「おいしいお弁当渡したかったの。佐助くんに喜んでもらえるような。」

「ひめちゃんからもらえるなら、それだけで嬉しいよ。」

「……ごめん、なさい。」


言い訳がましい私の言葉に優しく諭してくれる佐助くん。
慶次くんが言っていたように、佐助くんは『味なんて関係なく、もらえること自体が嬉しい』と思う人だったのだ。
それなのに私は味ばかり気にしていて、他の人にお弁当を渡そうとしていて。佐助くんを傷つけてしまっていたことにようやく気がついた。


「まぁ、今回は許したげる。可愛い乙女心に免じて、ね。」


ほら、顔上げて。
佐助くんに促され、私は顔を上げた。佐助くんは柔らかな笑みを浮かべていた。
もう、怒っていない。私は安心した。


「というわけで、ひめちゃんは俺様の彼女だから手ェ出さないでねー!」

「……はっ!」


佐助くんはニヤリと意地悪な笑みをしてから、大声で叫んだ。
そうだ、ここは教室だ。教室という公共の場で、おまけにクラスメイトが大勢いる中で私たちは抱き合っていたのだ。
クラスメイトは「は、破廉恥でござる!」という一部を除き、「やっぱり恋はいいねぇ」「Whew!やるじゃねぇか猿!」と私たちをはやし立てる声が多かった。
これはとても恥ずかしい。


「あの、佐助くん!そろそろ離して…!」

「ダーメ。だってまだ好きって言われてないもん。」

「…は?」


佐助くんは一体何を言っているのだろうか。
遠回しにここで告白しろと言っているようにしか聞こえないのだけど。
佐助くんにはもう気持ちは知られているし、いまさら好きと伝えなくても良いのではないか。私は首を横に振って無理!と拒否する。


「じゃないと離してやんないよ。ひめちゃんって俺様のこと、どう思ってるんだっけ…?」


佐助くんは意地悪だ。嫌でも好きと言わせるつもりらしい。私の中の優しい佐助くんのイメージが崩れていく。(でも、意地悪な顔も…ちょっとかっこいい……なんて)
このまま抱きしめられているのと私の心臓がもたなくなりそうなので、ここは覚悟を決めて佐助くんに告白しなければならない。
私はスゥーと息を吸った。


「…好きです。佐助くんのことが好き。」


優しいところ、ちょっぴり意地悪なところ。私のために妬いてくれるところ。
佐助くんのすべてが好きだ。本当に好きになってよかったと思える人。


「大好きだよ、佐助くん。」


私は佐助くんに抱きついた。照れ隠しというのもあったけど、このあふれる想いを言葉以外でも伝えたかったから。
身体を通してこの想いが伝わればいい。
すると、佐助くんはより強く抱きしめてくれて。


「俺様も、好きだよ。ひめちゃんのこと大好きなんだ。」


ドキドキドキドキ。
佐助くんの音なのか自分の音なのかも聞き分けられないくらいにくっついている私たち。
この心臓の音がなぜかしら心地よかった。そして、佐助くんの身体は変わらず温かかった。
ここが教室であるのも忘れて私たちは長く抱きしめ合った。


「今度、俺様に弁当作ってきて。」

「うん!好きな具はある?」

「ん〜、ひめちゃんの愛が1番好きかな。」

「もう、そんなこと言って!…たくさん込めてくるね。」


佐助くんのあのかっこいい顔でそしてキザな台詞を言われればそれはもう顔が赤くならないはずがないわけで。
私の熱はきっと最高値まで上がっていると思う。それほど顔が熱かった。
端から見ればバカップルなやりとりに周囲もいい加減うんざりしてきたのか、「お前!ひめにさわりすぎだ!離れろ!」「離れるがよい、目の毒だ」「…ったくよぉ。見せつけやがって…!やるなら他でやれよ」と不満の声を上げ始めた。さすがにくっついているわけにもいかず、私は佐助くんの胸を押した。
佐助くんはちょっと不満そうな顔をしたけど、ちゃんと離してくれて。
少しだけ彼のぬくもりが恋しくなったのは秘密にしておこう。
佐助くんは周囲に「はい、散った散った」と声をかけ、自分の席に戻っていった。


「ひめちゃん、一緒に帰ろう。」


バッグを手にして戻ってきた佐助くん。そして目の前に手が差し出された。
私は自分のバッグを肩にかけ、その手を握った。佐助くんの手は温かかった。
このぬくもりはくせになってしまいそうだ。
私は苦笑して、佐助くんの後に続いた。










ずっとずっとぬくもりを感じていたいのです

(こんなにも幸せすぎるワガママを、彼は叶えてくれるだろうか)





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長文になっちゃった。後半がただのバカップル




20120915



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