- ナノ -


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 この世界にはたくさんの竜が出てくる話があるからさ、僕が書いた物語なんて、似たようなのを誰かがもう書いてるのかもしれない。彼はおもむろに筆記具を置き、ぽつりと竜に言った。でもさ。いままであった物語とは微妙に違う何かが、別の感じを生むかもしれない。別の誰かに届くかもしれない。そう思うと、書き続けよう、書き続けなきゃ、って。
 それから彼は再び書き始めた。すっかり辺りが暗くなっても。竜はそんな彼の背中を、静かに見守っていた。


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