- ナノ -


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 物心がついた頃から暮らしていた人の町を飛び出した。そして今この森にいる。ここには親切にしてくれる者もいるし、安らぎもある。しかし竜は考えてしまう。町を出てから驚くような発見や胸が踊るようなできごとがたくさんあった。世界にはまだ、そのようなものが眠っているのではないかと。
 いつしか、ずっと遠くの方を見つめる時間が多くなった。そんな竜の様子を、どこか哀しそうに、白い竜が見守っていた。


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