空を見上げる
- ナノ -


空を見上げる

 中学の教科書に載っていた詩の中に、「あなたは今日、空を見上げましたか」という質問があった。
 ふいを突かれた。
 そのときは空なんていつも頭の上にあるものだと思って、たいして気にかけてもいなかったのだ。
 そんな私が、高校に上がってから空をよく見上げるようになった。
 それは通学路のおかげである。
 電車から降りると、学校までの道は半分以上坂道で荷物を持った私たちには厳しく、特に行きはみんなで毎日つらいつらいと言いながらやってくる。
 しかしこの道、本当は私の大好きな道だ。
 なぜかというと、ここには私が住んでいるところではあまり見られなくなった自然がたくさん残っているから。
 田んぼに川に木々がある。遠くではなくて、触れそうなほど近くに。
 見たこともないような大きなおたまじゃくしが泳いでいるかと思ったら、こんな小さなかえるがいるのか! と疑ってしまいそうになるほどミニサイズのかえるがいた。私が幼稚園くらいの時に見たっきりその後ほとんど出会ったこともないさわがにもいた。よくアゲハチョウを見かけた。オニヤンマが飛んでいてその大きさに驚いた。ヘビやトカゲが普通に道をはっていた。
 もともとのどかでゆったりした風景と雰囲気が好きな私は、その上こんないきいきとした生き物たちがいると知って、まるで小さな頃に戻ったかのようにとてもわくわくしてしまった。
 いいな、と思った。
 いろいろな生き物たちが住んでいる道は、ほんとにいい。
 そんな道だからこそ、ごくごく自然に空が大地とつながって見えるのだ。
 この道の風景は、大地と空とでひとつだ。こんな風に景色を見るということは、なかなかない。私の周りではいつも大地の風景が主体でその上に空というおぼろげな風景が広がっているだけだったから。この道を何度も通ることによって自然を見、それらは私の目をそのまま空にも向けさせた。
 育ってゆく田んぼの稲と共に、桜の舞う青い空やぼわぼわと濃淡のついた入道雲があった。最近では帰り道になると、刈り入れが済んだ田畑に日没のオレンジの光が射し込むのを見ることができる。その様子はどれもそれぞれに素敵だ。
 しかし稲が実を結んでいく秋口に見たあの空の色は、その中でも最も鮮明に私の脳裏に焼き付いている。
 部活が終わって一人で帰っていたときのことだった。ふと目を上げると、昼間の青い空と夕暮れの赤い空が一緒にそこに広がっていたのだ。青は赤にとけ、赤は青にとける。その色はまるで虹のように何色もの色を出していた。
 青、水色、黄色、オレンジ、赤……。
 オブシディアンオパールという石の色にそっくりだったが空はそれ以上にきれいだった。石よりももっと透き通っている。それでいて一色一色がとても鮮やかなのだ。
 ああ、空はこんなにも美しかったんだな、と思った。
 それ以来、私はますます空が好きになった。そして今でも空を眺めては、しみじみと感動したりしている。

「あなたは今日、空を見上げましたか」

 今ならあの質問に自信を持って答えられるだろう。はい。私は毎日空を見上げるのが楽しみです、と。





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