- ナノ -


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 平衡感覚がなくなり、耳の奥が重く詰まる。宙に投げ出されるような不安。みるみる離れていく大地に、気が遠くなりかける。だけど、と彼は呟く。竜に乗って空へ飛び立つ、この瞬間が好き。
 これから何かが始まる。そんな予感が、この一瞬に凝縮されている。彼の声が聞こえたのだろうか。竜が頷いたように見えた。


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