- ナノ -


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 もし一年にひとつ、その誰かにとっての話が生まれるとしたらさ。竜の話を書き留める手を休め、男は言った。百年生きれば、俺たち人間にも百個の物語ができるってことだよな。竜は目を細め、そうだな、と頷く。長生きの竜には敵わないけど、それってけっこうすごいことって気がするんだ。そう言うと、男はにっこり笑った。


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