- ナノ -
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竜はじっとしていた。森の中、少し開けた場所で身を伏せ、ただじっとしていた。口を開くこともない。まして、森の生き物を襲うこともない。そんな竜の様子に、それまでこわごわと草木の影から竜を見ていた生き物たちも、少しずつ心を開いていった。竜の体の上で小鳥たちは羽をやすめ、竜の鼻先で子熊の兄弟が転がって遊ぶ。不思議と、誰も争わなかった。竜のいるこの場所では。
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