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- ナノ -


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 いつしか人は、傘をさして雨粒を避けるようになった。いま、竜の傍にいる人間もそれを広げている。ちょっと竜の羽みたいだよな、と彼は言う。でもたまに、傘なんて捨てて雨にあたりたい時もあるんだ。竜が少し、首を傾げるようにすると、彼は続けてこう言った。泣いていても、わかんないだろ? 傘をさした彼の表情は、竜からは、見えない。


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