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- ナノ -


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 どうして悲しいことはやってくるんだろ、とその仔竜は言った。ずっとずっと、楽しいことが続いて、悲しいのがくるすきなんてなくなればいいのに。そうだな、なぜなのだろうな。竜はしばし口を閉じ、それからおもむろに言葉を紡いだ。ただ、悲しみがあるから、心に残るうたは生まれるのだろうな。
 人の住む街に、幾つものひかりが灯っている。降り出した雨は、そのひかりをやさしく抱くように、あわく広がっていった。


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