- ナノ -


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 簡易的な寝袋に包まり、焚き火の側で寝息を立てる人間を眺めながら、黒い鱗を持つ竜は言う。こいつは、俺に喰ってくれと願った。生きていても何もいいことがないから、と。その命、貰うことにしたよ。こいつを旅に連れ出すって形でな。
 そうか、と黒竜の話を聞いていた竜が頷く。竜乗りを覚えるのには随分苦労していたが、そこは俺に命を委ねた手前、文句は言えまい、と黒竜は笑った。人間の顔は穏やかだった。よい旅を、と竜はその寝顔に囁いた。


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