- ナノ -


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 その高山の頂には龍が住んでいた。訪ねてきた竜を一瞥し、何の用だ、と短く問う。あらゆる生き物がこの地を離れていく。君もここを去るのか、と竜は言った。そんなことかと言わんばかりに龍が鼻を鳴らす。どうせ後僅かの命よ。儂はこの山で生まれ、この山に還る。
 雲の隙間から光が伸びた。切り立った岩肌にも似た龍の険しい顔が、一瞬、穏やかに照らされるのを、竜は見た気がした。 


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