- ナノ -



本との別れ
2022/03/27 22:12

本というのはふしぎなものですね。
もちろん、その本に書かれていること自体がかけがえのない記憶や思い出にもなります。
しかしそれに加えて、その本を読んでいた時のことまでもがにおい立つような記憶となることがあります。

この本といつ出会ったのか。
この本を読んでいたのはどこか。
そのとき、自分はどんなことを考えて、どんな生活をしていたのか。

まるで写真をたくさん挟んだアルバムを開くように、思い出されてくるのです。
読みながら、自分の記憶をそっと綴じこんでいく。
私にとって本は、そのようなものでもあるのかもしれません。

そういったこともあり、本を手放すのは思い出とさよならするように、私にとってはつらいことです。
それでも、ひととの別れと同じように本との別れもある。

たくさんの本がいまの私を作ってくれたのを折にふれて感じます。
1冊1冊がかけがえのない存在です。
そんな彼らがめぐりあいによって誰かのもとに届き、その誰かと新しい思い出を紡いてくれること。
それを願って、私は本たちを送り出します。

あのときの本、そのものではないけれど。
書店で、図書館で、町のどこかで。
送り出した彼らと同じそのタイトルの本を見かけるたびに、私は思い出のかけらにふれるでしょう。
ともに過ごした人生のひとときを思い出すでしょう。

春のひかりのように。
その思い出は、やさしく、やわらかく、私のこころを照らし出してくれます。






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