★自分勝手な願いを残して

※七巻ネタ


 今まで生きてきて嫌いなものなんて数え切れないほどあった。嫌いな食べ物、生き物、天気、人、はっきりいって好きなものを挙げていた方が早いんじゃないかと思うくらい私の周りには嫌いなものがたくさんあった。その中で、一番嫌いなものが何かと聞かれたら即答できる自信もあった。

 それの名前はフレッド・ウィーズリーだった。グリフィンドールのクィディッチのビーターで、校内一のお騒がせもの。ついでにいうならその弟、ジョージ・ウィーズリーもだ。あの二人はうるさいしそこに居るだけで私を苛つかせるそんな奴らだった。
 だけど、私が最も嫌いなのはフレッド・ウィーズリーの方だった。

 しかしホグワーツ内であの双子は男女問わず人気があり、特に女子からはかなり恋愛対象として好かれていた。はっきり言って理解しがたい。あんなのと付き合うぐらいだったら私はフィルチと熱いキスを交わす方を選ぶだろう。そもそもどうしてそんなに嫌うのかと言われたら答えは簡単。よく知りもしないうちに私に廊下のど真ん中で好きだと言い出し、私が付き合っていた男の子は脅迫でもされたのか知らないけれど少し青ざめた顔で私に別れを告げに来た。さぁ君は今フリーだろう、俺と付き合おうぜ!なんてふざけたことを言っているフレッド・ウィーズリーに石化呪文を放って監督生に怒られたのは昨日の事のように思い出せる。冗談じゃない。あなたとはどんなことがあっても付き合わない。そう言ったにも関わらず、あいつはなんどもなんども人の彼氏を潰していって、出会うたびに付き合おうとか好きだとか薄っぺらい言葉を並べてくる。
 そのくせ自分はちゃんと彼女がいて、私が付き合ってくれたら別れる、なんて。ふざけてるとしか思えない。そんな男と付き合った瞬間私の印象が悪くなるに決まってる。周りの友達は口を揃えて羨ましいといい、たまに訳の分からない嫉妬の対象にもなったりした。アンブリッジが来たときにはたしかに私もあいつが嫌いでハリー・ポッター達率いるダンブルドア軍団に入ったけれど、どこまで自意識過剰なのかあいつは自分がいたから私がそれに参加したと良い、更にヒートアップしていた。
 二人が退学する前日、フレッド・ウィーズリーは私に一緒に来ないかと言ってきた。たしかに私も人への好き嫌いを隠さない性格だったのでアンブリッジから不条理な嫌がらせを受けていたけれど、こいつのために私の人生に退学という泥を塗るなんて言語道断だった。

 だから私はあいつが嫌いなのだ。私の平穏をことごとく潰して、へらへら笑っているフレッド・ウィーズリーは嫌いを通り越して憎んでいたと言っても過言じゃない。あの自主退学の日、私はあいつと縁を切ったつもりだった。






 なのに、どうして再会してしまったんだろう。どうしてわざわざ、仲が良かったわけでもないハリー・ポッターのためにホグワーツに戻ってきて、命までかけて戦ってたんだろう。なんてそんなことはどうでもいい。フレッド・ウィーズリーは、いつもと同じように自身の片割れであるジョージ・ウィーズリーと一緒にいて、いつもの様に顔には笑顔を貼り付けている。

 一つ違うのは、いつもの減らず口が聞こえてこないことだった。

 そういえば、ジョージ・ウィーズリーの左耳がない。二人の見分けなんてつくはずがないし見分けたいとも思っていなかったけれど、私がいつもフレッド・ウィーズリーだと分かったのは片割れは私に構ってこなかったからだ。


「どうして、いつもヘラヘラ笑ってるのよ。最後の日だって、どうして、笑顔で、さよならなんて、言ったりするのよ」


――――あんたみたいな奴に着いて行くくらいなら、アンブリッジに媚売って部下になる方がずっとましよ!


 あの時初めて、一瞬だったけどフレッド・ウィーズリーの顔から笑顔が消えるのを見た。その顔が脳裏に焼き付いて、謝ろうとなんども思ったけど私の足はダイアゴン横丁へは向かなかった。もしかしたら、ここにきたのはただ単にフレッド・ウィーズリーへの謝罪のためだったのかもしれない。ハリー・ポッターだとか、ヴォルデモートだとか、そんなことより自分のちっぽけな悩みの方が大事だったのかもしれない。
 やっと見つけた嫌いな奴は、もう私の声すら聞こえてはいないのだ。

「私のどこが好きだったのよ、あんた、一回も言わなかったじゃない」

 初めて、私から彼に話しかけた。こいつは私に好きだの愛してるだの言葉を言い続けてきたけれど、どうして好きなのかは決して伝えてくることはなかった。だけど、今となってはもう聞くこともできない。ジョージ・ウィーズリーに聞けば何か知っているかもしれない。なんせ世界に一人しか居ないお互いの半身なのだから。だけど、本人から聴かなければ意味がない。
 付き纏われていた期間はあんなに長かったのに、初めて彼の肌や燃えるような赤毛に触れてみる。触れた肌は冷たくて、一度許可も無しに抱きしめられた時のぬくもりを思い出した瞬間涙腺が緩んだのが分かった気がした。

「嫌いよ、あんたなんか。人がせっかく来てやったのに、どうして居なくなっちゃうのよ」

 フレッド・ウィーズリーの家族や他の生徒たちがいるのも気にしないで、もう冷たい彼の唇にキスを落とす。もちろんそれは暖かいはずがないのに、温く感じたのは私の涙のせいだろうか。



 私だって好きなものがないわけじゃない。お母様の得意な料理だとか、成績を褒められるのだとかホグワーツで過ごした日々だとか。挙げてみればたくさんある。だけど、好きなものが増えれば相反して嫌いなものも増える。私の中はそうして均衡が保たれていたのだ。
 もしかしたらフレッド・ウィーズリーの事は早い段階で好きだったのかもしれない。だからもし、今一番嫌いなものは何、と聞かれたらきっと死んだ人、と答えるだろう。



 だから結局、いつまで経っても私と彼は結ばれないのだ。





Good-by my dear.

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