★夢を夢で終わらせない

「あれ、寝てる」

 余りにも眠すぎて早い時間に寝たら、こんな真夜中に起きてしまった。どうしたものかと数分考え込んで、談話室に降りていくと自分の腕に顔を伏せてぐっすり眠り込んでいるビルがいた。横に置かれているのは魔法薬学の教科書と、図書館から借りてきたのであろう別の魔法薬学の本。どうやらレポートを書いてる間に寝てしまったらしい。右手に持っている羽ペンをそっと取って、インクを拭き取って横に置く。少し羊皮紙に染みてしまっているけれど、気にするほどのものではないだろう。寝息までたてているのがおかしくて思わず笑ってしまった。このレポートの提出はもう少し先のはず。眠いのなら今日はやめて部屋に戻ればいいのに。
 眠りに落ちているのをいいことに、ビルの髪を解いて指ですいてみた。こんなの、きっと彼女とか家族とか、親しい人しか許されないことだ。だけど、寝てる間だけ。密かに彼に恋心を抱いている一人の女学生の哀れな行動だと思って見逃して欲しい。ビルに彼女がいるのは知っている。もう噂になってから数ヶ月が経つ。傍から見てもお似合いなのは一目瞭然で、私が告白する隙なんてこれっぽっちも存在していなかった。それでも、いいお友達で入れているのはちょっと自慢だったりする。指をくわえて見ているだけの人め、ざまあみろ!……嘘です、そんなこと思ってません。

「……ん、」
「げっ、」
「ナマエ?何してんの?」

 思わず、女の子らしくない声が出るほど驚いた。私が見た限りだと結構な熟睡だったから、起きないと油断していたのが慢心だった。いつもは高い位置でくくられているビルの長い髪は、今は私のせいで低い位置でみつあみされている。わあかわいい。そう言って逃げようとしたんだけれど、がっちりと腕が掴まれてしまった。痛いです。

「あれ、髪」
「ごめん、勝手にいじった」
「みつあみ?ははっ、昔弟にもやられたな」

 それってチャーリー?と聞けば、柔らかく笑いながら違うと言われた。悪戯好きの双子の弟にやられた事があるらしい。

「ていうか、ナマエなんで起きてるの?」
「早く寝たら早すぎたみたいで」
「子供みたい」
「うるさいなあ」

 わざと頬を膨らませて拗ねてみたら、割と思いっきり指で突かれた。空気が抜けて、若干の痛みが頬に走る。絶対にこれは子供扱いされてるなあ。

「彼女に誤解されると悪いし、私もう戻るね?」
「……彼女?」

 不審そうに私を見るビルに、噂に名高い彼女様の名前を挙げてみたけれど、ビルはその髪の色と正反対に、顔を真っ青にして否定した。

「違う!確かに仲は良いけど、そういうんじゃない!」
「ちょ、うるさいよビル」

 自分が大声を出したことに気づき、彼は咄嗟に口をつむいだ。怒っても綺麗な顔立ちなのが羨ましい限りである。というか、ビルが怒ったという事に重点を置きすぎてもっと大事なことに気づくのが遅かった。付き合ってないだって?ならどうしてあんなに親しげなんだ。それに、噂がもう大分回っているんだからだったら否定くらいすればいい。だけど、そうは言っても純粋に喜んでいる自分がいる。

「……そうか、まさかナマエにまで誤解されてたか」
「え、私は見抜いてると思ってたの?」
「だって、普通に話しかけてくれてたし」

 ……今考えれば、妬まれてもおかしくないポジションだったというわけか。ここ数ヶ月の自分の行動を思い返すと背筋がゾッとする。いつ女子トイレに連行されていたかわからないなんて、そんな学校生活の思い出はいらない。ノーセンキューだ。

「好きな子に誤解されるなんて悲しいな」
「……は」

 私の手を離して、爽やかにビルは爆弾を投下した。好きな子、とは、ビルの好きな子、というので合ってるのだろうか。フリーズした頭を必死に動かして、談話室を見渡しても誰もいない。私?とでも聞くかのように自分を指させば、彼は満足そうに頷いた。

「……ああもうっ、私も大好き!」

 人がいないのをいいことに、飛びつくようにビルに抱きついた。割とものすごい勢いだったのに、ちゃんと受け止めて、私の頭を撫でてくれるビルはかっこよかったけれど、どこか妹扱いされてる気がしてなんだか少し腑に落ちなかった。

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