★自意識過剰な被害妄想

 勉強だって特別できる訳じゃない。箒に乗るのだって上手くもなければものすごく下手なわけでもない。お父様やお母様に怒られたらいつも泣きそうになるほど精神だって強くない。
 なのに、どうしてドラコは私と一緒にいてくれるんだろう。少し性格に難があるけれど、勉強は出来るし箒の扱いだって目を見張るほどうまい。人の上に立ちたい人だから、そのために努力を怠らないことを私は知っている。グリフィンドールのハリー・ポッターやそのお友達はドラコの事を卑怯だとか悪者だとか言うけれど、私はそうは思わない。私には、そんな執着心とか向上心がないからむしろ尊敬してしまう。

「……ねえ、ドラコ」
「なんだ」
「どうしてドラコはわたしと、その……付き合ってくれてるの?」

 そもそも、告白してきたのはドラコの方だった。あの時のことは昨日のことどころか一時間前の様に鮮明に思い出せる。3年生の時に、遠くから眺めていただけのあのドラコ・マルフォイからホグズミードのお誘いを頂いた。友達は皆ドラコが私に気があるだとか告白されるだとか、そういってはやしたてたけれど一切そんな可能性は無いと思っていた。思っていたのに、さんざんホグズミードを楽しんだ後に帰り道で、告白されたときは何事かと思った。だって、私は地味だし目立たないし可愛くもない。それにドラコにはいつもパーキンソンがいる。だから、そんなことないと思っていた、のに。

「どうして急にそんなこと聞くんだ」
「いや、あの、気になりまして……」

 だって、そんなの今急に気になったことじゃない。思い返せば告白された時も、ずっと目で追っていた人にそう言われて思わず首を縦に振ったけれど、寮に帰ってまっ先に気になったことだった。どうして、ドラコみたいに人の視線を集める人が私なんかに目を向けたんだろう。例えるなら光と影の存在なのに。

「あ、あのね、私って地味だし、頭も良くないし、誇れることって家の事ぐらいだし、どうして私なんかと付き合ってくれてるのかなって思って……。ほら、無理に合わせてくれてるんだったら、そんなことしなくていい……」

 言い切る前に、ドラコに思い切りソファに押し倒された。別にそういう雰囲気じゃなくて、むしろ空気がピリピリしていて息を吸うのも億劫になるほどだ。私が言葉を発しようとした瞬間喉元に杖が突きつけられる。怖くて視界が涙で滲んだ。

「君は、僕を馬鹿にしてるのか」
「な、なにが」
「僕が家柄だけで選んだと、そう言いたいのか?」

 ドラコの問いに、違うとは言い切れなかった。だって、そう考えたっておかしくないくらい私はドラコと不釣合いだから。確かに少し傲慢で、意地悪で、やることはえげつないかもしれないけどそんな人じゃないってことは知っている。それなのに信じることができないのは、私が自分に自信を持てないからだ。

「確かにお前はこれと言って長所はないかもしれない、世間一般ならな」
「せ、世間一般……」
「だけど、短所ばかりでもないだろ」

 そう言うと、喉元から杖を離して私の上から退いた。未だにあの杖からなにか呪文が出ていたらと思うと寒気がするけれど、遠まわしにドラコに褒められたことが嬉しかった。私の長所を教えてくれない辺りが彼らしい。思ったことはずかずか言うくせに、どうしてかたまに照れるみたい。そういう時に、彼も同じ人間なんだなあと自覚する。妙に距離を置いて私の隣に座るドラコに近寄って、肩が触れる距離まで移動した。恥ずかしいけれど、私はいつも伝える努力をしないからこういう事態を招いてしまうのだ。

「あのね、ドラコは良いところたくさんあるし、そんなドラコが好きだよ」
「あ、ああ……」

 勉強も出来るし、箒もうまいし、家柄も良い。パーキンソンが惚れるのもわかるよ。だけど、私だってここは譲れない。普段言わないような事を言ったせいで顔が赤くなり、ちらりとドラコの方を伺えば彼も耳が少しだけ赤かった。私が笑うとドラコはすねてしまったのか足早に自分の部屋へ戻っていく。おやすみ、と勇気を出して声をかけてみれば、小さな声でおやすみと返ってきた。そんなにすぐには自分に自信なんて持てないけど、ドラコが好きになってくれた自分を信じてみたい。

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