★ナイトメアにご注意を *ハロウィンネタ ハロウィンというイベントのせいで、いつもより浮かれているジェームズとシリウスを見送って、時間を空けて僕も大広間へ向かった。そろそろ人も少なくなってきただろう。満月は先週だったから体調に特に異常はないけれど、なぜかあまり人には会いたくない気分だった。それでもたまに会う知り合いや後輩にお菓子をもらったりあげたりして、大広間につくとグリフィンドールのテーブルにはまだまだ人がたくさんいた。仮装をしている人もそれなりにいて、手前から奥の席まで見渡してみると、一人だけ、僕からしたらとても目に付く格好をしている人がいた。 「ナマエ?」 「あら、リーマス!今から食事?」 「あ、うん」 カチューシャで耳をつけて、ベルトにしっぽをつけて。その作り物は、猫とかではなく犬に近いけれど、それよりももっと獰猛なものを彷彿とさせた。まるで、狼、のような。 「それ、えっと」 「狼男の恰好なの!似合う?」 「……ナマエって女の子だよね?」 「男の子に見えるのかしら?」 ツンとした顔をしてそっぽむいた彼女に弁解の言葉を述べれば、にっこりと笑顔を向けられた。僕が本心で言った言葉ではないことは彼女も百も承知なのだろう。とりあえず座り、目の前にあるチキンにも目もくれずにパンプキンパイに手を伸ばした僕にナマエは大げさにため息をついて、それからサラダを押し付けてきた。嫌いなわけじゃないけれど、なんだかお母さんに面倒を見られている子供みたいで複雑な気分だ。 それに彼女の仮装も、あまりいい気のするものではない。本当の狼男は、そんな風に耳としっぽだけなんてものじゃない。理性を失って、目も当てられないような有様だ。これがジェームズやシリウスだったら僕は相手を殴っていたかもしれない。バカにしているのかと、皮肉なのかと。だけど、ナマエは僕が人狼だということを知らないから、この格好に僕がどう思ってもそれはただの僕のわがままだ。 「リーマスはあの二人と一緒に行かないの?チョコレートもらえると思うけど」 「十分足りてるよ」 それに、あの二人はお菓子を巻き上げに行ったのではなくて悪戯をしに行ったのだ。僕がついて行ったところでやることは何もない。現にピーターもそう判断して寮に残っているし。 「さっきリリーがさっそくジェームズに絡まれてた」 「ははっ、かわいそうに」 「お菓子もあげずに悪戯もされずに帰っていったけどね」 「さすが」 にっこり笑って、それから彼女はかぼちゃジュースを一気に飲み干して、むせた。何してるんだか。思わず笑ってしまったのを隠そうとしたけれど口角が上がるのはどうにも出来なかった。背中を叩いてあげて、おさまるとすぐに笑顔でお礼を述べられる。瞬時に彼女のカチューシャを奪って、自分につけてみた。 「どう?」 「……すっごく似合う!」 彼女が僕が付けた耳を触ろうとすると、大広間の入口から大声で名前を呼ばれた。見なくても分かるその声の主にため息をついて、カチューシャを返して持ち主の頬にキスを落とす。 「良いハロイウィンを」 「リーマスもね」 いたずらっぽく笑うナマエに笑い返して、踵を返せばポケットに何か入っていることに気がついた。シリウスとジェームズの横に並んで寮を目指す途中で確認すれば、それは僕の大好物のチョコレートだった。 ★戻る HOME>TEXT(hp)>>ナイトメアにご注意を |