★記憶を思い出に変えて、君にさよならを

 きらきら笑う君に恋をした。



 初めて話をしたのは、何かの授業だった気がするけど思い出せない。魔法薬? 変身術? 闇の魔術に対する防衛術? 君以外の事なんで覚えてない。だけど君に関することなら頑張って覚えたんだよ。馬鹿じゃないのってくらいイケメンのシリウス・ブラック、にこにこおだやかなリーマス・ルーピン、いつも困った顔をしてるピーター・ペティグリュー。皆口をそろえてブラックのほうが良いって言うけど、私には何千倍も何億倍も君の方がよく見える。


 ばたばた廊下を走る様子も、ふわふわの髪をいじる様子も、素敵だと思う。箒をまるで自分の体の一部のように扱ってみせるクィディッチは見ていてとても興奮する。悪戯仕掛人のリーダーで、良くも悪くも破天荒な彼は人気者であり嫌われ者だ。


 じろじろ、彼はいつも注目の的。でも彼は、自分を見ない女の子を好きになった。


 リリー・エバンズ。悪戯仕掛人以外になら誰にだって優しい子。珍しくて、それでいて嫌悪される赤毛は彼女の髪というだけできらきら輝いて見える。私の髪なんて、大広間で見渡せばそこら辺に沢山いる。私は、至って普通の女の子。あの人の人生に踏み込めるはずのない、極普通の女の子。


 告白なんて、しようとも思わなかった。彼のことを考えただけで心臓が早鐘を打つのに、彼の視界に入って、あのきらきらの瞳に私が映るなんて、あり得ない。



 だけど、今日が終わればもう、彼を毎日見ていた日々も終わってしまう。卒業、かあ。声に出してみても、実感なんて全くない。


「だから、私はお礼を言いに来たんです」
「お礼? こういうシーンだからてっきり告白だと思ってた」


 きらきら。
 ちょっとふざけているのに、向けられた笑顔は私が惚れた笑顔そのもの。この笑顔を独占したい、なんて考えたことはなかったけど、もしそんな事できたら幸せものだと思う。


「私は、ポッターが好きだった。今も変わらず好きだけど、きっとその気持ちもだんだん忘れていくんだと思う」
「リリーから僕を奪おうとか、そういうのは考えなかったの?」


「ううん。私は、ポッターを好きでいた7年間幸せだったから、それで十分だよ。

 ありがとう、あなたはずっと、私が好きなあなたのままで居てくれた。これから貴方を忘れて、あなたじゃない人を好きになって、結婚するんだと思う。でも貴方を好きでいた7年は、ずっと大切な思い出として覚えてる。


 素敵な初恋にしてくれて、本当にありがとう」


 それだけ言って、彼に背を向ける。ある意味では盛大なる玉砕。だけど、心のなかがすっきりしてる。



「ねえ!」
「え?」
「君みたいな人に好かれて、僕も嬉しいよ。ありがとう」
「……リリーと、幸せにね!」



 きらきら、ふわふわ。
 さようなら、かっこよくて、賢くて、友達思いな私の初恋の人。




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