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「ナマエ! あのさ、今度のホグズミード一緒に行かない?」
「ごめんねビル、私はチャーリーと行くの!」
「いや、約束してないから」

 まただ。何度もデートに誘っても、気持ちを伝えても、こうやってさらりとかわされる。しかも俺の好きな子が好きなのは俺の弟なんて、泥沼もいいところだ。

 一学年下のナマエは、明るくて裏表のない性格だから男女を問わず人気者だ。いつも人の輪の中にいる子で、そんな彼女に俺が惹かれるのはそう遅くなかった。なんていうか、子犬みたいな子。人の気を引くのがうまくて、そういう魅力というか、才能というか。

 そんな彼女が好きになったのは、属性で分けたら同じ所にいるようなチャーリーだった。そんなの全然知らなくて、告白したら

「ごめんなさい、私チャーリーが好きなの!」

 と言われて俺は目が飛び出るかと思うくらい驚いた。さすがに、名前は伏せておいてほしかった。知らなかったらそれはそれで気になるけど、知ってからの後悔のほうが大きいに決まってる。うわさが広まるのは俺が思うよりもずっと早くて、「ナマエがチャーリーを好き」というのは本人にまで伝わった。

「えっ、ナマエが、俺を好き? まさか」
「お前が弟じゃなかったら殴ってるよ」

 最初、チャーリーはそのうわさを信じなかった。しかしそれからナマエはチャーリーへの好意を隠しもせず、食事の時にはかならずチャーリーに声をかけていた。「おはよう」「調子はどう?」「試合、頑張ってね!」くそう、俺も言われたい。いや、あいさつはされるけど。だけど俺だって諦めたわけじゃないし、なにより恋敵が弟ってのが、なんか、負けられない。


* * *


「なんでナマエはチャーリーが好きなんだ……」
「さあ……それは俺も知らない」
「俺、一応モテるのになあ。俺じゃダメなのかな」
「うん、俺もナマエとビルはお似合いだと思う」
「お前がそれを言うか」

 スコーンを食べ終えたチャーリーに紅茶を差し出しながら、日々の愚痴をぶつけていく。恋敵に慰められるなんて、変な気分だ。恋敵である前に、弟なんだけど。複雑過ぎるこの関係が、とてつもなく面倒くさい。
 チャーリーは、ナマエのことを嫌いなわけではないらしい。だけど恋愛対象として見てはいないそうで、自分の兄が好いている相手である以上ホグズミードに一緒に行くわけにはいかない、というスタンスらしい。義理堅いというかなんというか。それはそれでナマエがかわいそうな気もするけど。

「まあとりあえず……。俺は多分、よほどのことがない限りナマエを好きになることはないと思うから頑張って、ビル」
「……それ、絶対ナマエに言うなよ」
「言わないよ、そこまでバカじゃない」

 チャーリーは、さっきから手に持っているだけで決してページの進まなかった本をテーブルにポンと投げる。そういえば、今日はクィディッチの練習があるって言ってたっけ。

「多分、ナマエが来ると思うよ」
「……行くよ」

 純粋に「ナマエに会いに行けば?」という意味なのは分かってる。だけどやっぱり、チャーリーがいるからナマエがいるっていうのが、ちょっとくやしい。


* * *


「きゃー! チャーリーかっこいー! いえー!」
「…………はあ」

 チャーリーを応援するナマエをガン見してるのに、俺の視線には気づきもしない。こんっなに近くに座ってるのに一度も視線が合わないなんて逆にすごい。ていうか、ナマエはハッフルパフなのにこんなにグリフィンドールに肩入れして良いんだろうか。……それほど、好きってことか。

「ねえ、ナマエ」
「ん? どうしたのビル、変な顔になってるよ」
「え、」

 あはは、と笑う彼女と今日初めて目が合う。やっぱり、好きだなあ。そりゃあナマエが幸せになってくれればって思うけど、できるなら、俺が幸せにしたいって思うよ。俺だって男だし。弟にその気がないなら、なおさらだ。

「1回で良いから、俺とホグズミードに行ってくれませんか」

 俺から目を離さないように、チャーリーのほうを見ないように、ナマエの目をじっと見つめる。ナマエはポカンとした表情で、聞こえるのはクィディッチの練習をしているやつらの声だけ。俺たちふたりの間を風が吹き抜けて、追い打ちをかけるようにまた俺が口を開く。

「その1回で、俺のほうが良いって思わせるから」
「……うう、ビルってば、本当にずるいね」
「ずるい?」

 ようやく言葉を発したナマエは、いつものハキハキとした様子じゃない。

「ビルみたいにかっこいい人にそんな風に言われたら、さすがにドキッとしちゃうよ」

 困ったように笑うナマエの耳は真っ赤だった。今まで、告白した時ですらあっけらかんとしていたのに。見たことのない彼女の笑顔に今度は俺が照れる番。

「じゃあ、楽しみにしてる」

 ここにいるのも耐えられなくて、さも「なんともありませんでした」という風を装いナマエと、練習に勤しむチャーリーを置いてこの場を去る。緊張と興奮で、無意識に歩くのが早くなる。きっとこれが最初で最後のチャンス。どうしようかという戸惑いよりも、嬉しさのほうが上回る。

「っしゃあ!!!」

 廊下の真ん中で突然叫んだ俺を訝しむ視線を感じるけど、まったくもって気にならない。俺ってこんなに単純だったっけ。

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