★誰かをずっと探してる

「ちょ、ちょっ、待って、いま?」
「……そうだけど」

 てっきり、明日からよろしくお願いしますみたいなものだと思っていた。吸血鬼にとっての血液って、飲み物? 食べ物? それによっては、彼が今血液を欲しているのも納得はする。

「あ〜、そういえば。朔間って呼ぶのやめて」
「なんで?」
「兄者と同じで癪だから、ね?」

 業務連絡は終えたから、みたいにさっぱり笑う。そして首元に手を伸ばされて、ほんの一瞬肩がこわばる。

「り、凛月、くん」
「うん、良くできました」

 首筋にかかる息がくすぐったい。リボンは取られて、ボタンはひとつ開けられて。私、なにやってるんだろう。凛月くんが昨日の傷跡に舌を這わせると、また肩がぴくりと揺れる。
 あれ、そういえば昨日すっごく痛かったのは覚えてる。歯が皮膚に触れる感覚に、昨日の恐怖を思い出して身構えた。けれど、想像したほどの激痛は訪れない。

「っ、」
「ん……」

 小さい頃に、かさぶたをむいた感覚を思い出す。ピリピリした痛みと、凛月くんの舌の感触しか分からない。そよぐ風は、昨日と違って眼下の彼のシャンプーの匂いを運んできた。

「んん、やっぱ最高、おいしい」
「いっ、うう、」

 傷口はじくじく痛むのに、かかる吐息がくすぐったい。視界がくらくらしてきて肩を押すと、ぺろっとそこを舐めて名残惜しそうに首筋から離れていった。
 なんか、今更だけど恥ずかしいことを了承したのかもしれない。ボタンを閉められて、リボンをつけられている間、私は動くことはおろか声を出すこともできなかった。

「あは、顔真っ赤」
「〜〜〜っ!」

 恥ずかしいと自覚してしまっても、拒むことはできなかった。ほだされたわけじゃない、ましてや尻軽なわけでもない。それは私の性格ゆえに。

 ただ、誰かに必要とされたかったから。

「ごちそうさま」

 すごく嬉しそうな笑顔は私に向けられたもの。それだけで、私はとても満たされていた。

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