★苦労人の独白

 当たり前だろうけど、保健室で眠るなまえは青白い顔をしていた。それなのに、きれいだなと思ってしまう。

 生徒会の仕事に区切りをつけて、校内を見回っていたらなまえを抱える凛月に出会った。何してんだ? と思ったのもつかの間。制服のシャツの襟についてる赤を見て、まさか、と最悪のルートが頭によぎる。もちろん血がついているのは、凛月じゃなくてなまえのほう。

「お前、まさかっ」
「うーん、今回のは俺も不可抗力というか……?」

 否定しないとどころか、曖昧な肯定の返事に血の気が引いた。凛月はなまえの血をもらったらしい。一瞬混乱したけど、そんなこと言ってる場合じゃない。事情を聞きながら一緒に保健室に行き、すぐに凛月の背中をぐいぐい押してここから追いやる。

「なまえとは明日話せ。今お前に会ったらなまえが混乱する、絶対に!」
「だろうねぇ」
「他人事みたいに言うなよな……。あとは俺が面倒見るから、帰るなりレッスンするなり好きにしろ。じゃあな」
「うん、また明日ね、ま〜くん」

 からりと閉められたドアを確認して、盛大にため息をつく。ベッドに寝かせたなまえのそばに寄り、そんでもって冒頭に戻る。


* * *


 みょうじなまえは、天才だった。

 いわゆる革命みたいなものが起こったあと、あんずの仕事量は一気に増した。勝利の女神、だなんて言われるくらい周りに信頼されて、唯一のプロデューサーなんだからそんなの当たり前で。なまえに声がかかったのは、そもそも俺らが衣装の手伝いをしてもらっていたから。
 演劇科のみょうじなまえ。向こうの世界では有名人らしいが、俺らが彼女の存在を知ったのは演劇部の北斗がきっかけだった。衣装づくりが大好きで、みるみるうちに俺たちが輝くための手助けをしてくれた。彼女は自分を、役者ではなく演出家だという。
 あんずの仕事を、なまえはひそかに裏から支える形になっていた。そして2週間前ついに彼女はプロデュース科に異動した。なんでも、日々樹先輩が口添えしたとか。

 衣装づくり、ライブ構成、ステージ演出。
 どれをとってもなまえはその才能を惜しみなく発揮していた。きっと演劇と通ずるものを見出したんだろう。まるで自慢の秘密基地を教えるみたいに北斗がなまえのことを話していたのは、こういうことだったのかと納得する。
 ひとつ心配なのは、おそらく彼女は俺と同じ人種だということ。関わりのなかった凛月に一瞬で気に入られたとの、今の様子がそれを物語っている。

「しかし、まさか噛み付くとは……」

 おいしそうな匂いがしたから、じゃねーんだよ。凛月のやろう、頼むから面倒ごとは増やさないでくれよなあ。

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