雷門との試合を通して俺たち木戸川清修は一つのチームとして纏まることが出来た。 名門だなんだと言われながらも内部分裂を起こし、お互いを信じられなくなっていた俺たちをここまで纏め上げ、大切なことを教えてくれた監督に、俺は言葉では言い表せないほどに感謝していた。 これからまた木戸川清修に戻って練習だと皆で話す中、ふと監督へと視線を移せば、監督は誰もいなくなったフィールドを一人黙って見つめていた。それはまるでそこにいない誰かを見ているかのようだった。 声をかけるべきかどうかと悩んでいると、監督が小さく何か呟いた。 「彼に会えると思っていたのだけどね」 よく聞いていなければ聞き逃しそうなほど小さな囁き。俺以外に監督の声は届いていないらしく、誰も監督に声をかけることもなく話を続けている。そっと皆の輪を抜け出して、少し離れた場所にいた監督のもとへと歩み寄れば、監督が俺に気付いてふっと笑った。 「聞こえてしまったかな?」 監督からの質問に素直に頷けば、監督はまるで何でもないことのようにそうか、と言ってまた視線をフィールドへと戻した。 「人が持つ本当の強さというものを僕に教えてくれた彼のことさ」 懐かしむように目を細めて誰もいないフィールドを見つめる監督は、まるでその先にいる誰かをフィールドを通して見ているようだった。そんな監督の様子からは、監督が話すその人物が監督の中でとても大きな存在であると俺に理解させるには充分なものだった。 監督に倣い、誰もいないフィールドへと視線を移してそこにいる誰かを見ようとするも、俺の目には誰も映らない。知りもしない人物を見ようとしたって、見えるわけもないのは当然だ。だけど何故か分からないが、俺にはそのことがとても残念なことのように思えてしょうがなかった。 「貴志部、君もサッカーを続けていれば、いずれ彼と出会うことになるよ」 まるで俺の心を読んだかのように発せたれた監督の言葉に驚いて監督へと振り向けば、綺麗に笑う監督がいた。 「彼はそういう存在だから」 更に続けられた言葉がどういうことか分からなくて、俺は軽く頭を混乱させた。そんな俺に監督はすぐに分かるさ、と言ってどこか楽しそうに笑ってみせた。 |