南沢が旧友たちとの再会を果たしたのと時を同じくして、月山国光と雷門は線路を挟んで対峙した。南沢に気付いた雷門の選手たちが驚きの声をあげる中、南沢は挑発的とも取れる態度で彼奴らに宣戦布告の言葉を言い放った。

そんな南沢の言葉に雷門の選手の幾人かが声を荒げ、また別の幾人かは戸惑いの色を隠せずにいる中、雷門の円堂監督は黙って南沢を見つめていた。その顔は南沢に対して怒りを露わにしているものでも、南沢を責めるようなものでもなかった。

そんな雷門の面々をホームに残し、俺たちはサイクロンスタジアムへと向った。


サイクロンスタジアムの控え室へと移り、試合に向けて監督からフォーメーションの最終チェックが行われた。その指示を頭の中でもう一度確認し、俺は一足先にフィールドへと一人足を進めた。

控え室のある通路からフィールドへと出ると、スタジアムは既に観客で溢れ返っており、試合が始まる前だと言うのに声援が飛び交っている。流石はホーリーロードの本戦ともなれば観客の熱狂ぶりも凄まじい。

ぐるりと辺りを見回せば雷門の監督の姿があった。一人フィールドを見つめるその姿を視界に捉えながら、俺は雷門の監督が立っている場所へと足を進めた。

「貴方は南沢に何も言わぬのですね」

雷門の監督と多少の間を空けながらも俺はその横に立ち、隣にいる雷門の監督と同じようにフィールドを見つめて問いかけた。俺の声に気付いた雷門の監督が一瞬こちらを向いたが、すぐにまた視線を正面のフィールドへと戻した。

「今のあいつにはどんな言葉も届かないからな」

流石に戸惑う選手たちとは違って落ち着いている。先程南沢に対して声を荒げた者たちよりも、この監督のほうが冷静に南沢を見ているようだと思っていた俺に、雷門の監督はだけど、と話を続けた。

「試合をすれば南沢にも俺たちのサッカーのことが分かってもらえるって信じてる」

だから言葉はいらないと続けるこの男が俺には理解出来ない。それならば何故南沢は雷門から月山国光に転校してきたというのか。この男が言うサッカー、そして雷門の考えについていけないからこそ南沢は雷門に見切りをつけたというのに。

それなのに何故今から始まる試合をすれば、南沢がそれを理解すると言うのか。雷門にいて理解出来なかったことが、敵対して初めて理解出来るとでも言うのだろうか。

「そこまで言うのならば見せていただこう、雷門のサッカーを」

そして今の言葉が誠かどうか示してみよと隣にいる相手へと視線をやれば、揺らぐことのない真っ直ぐな瞳とかち合った。その真っ直ぐな瞳からは元よりそのつもりだと返されている気がした。

中々にして面白い。雷門に現実を見せつけ勝利せよとの指示だったが、どうやらこれは思ったよりも楽しめそうだ。

「我等月山国光、全力を持って相手になろう」

俺は掌をぐっと握り締め、目の前の相手をもう一度真っ直ぐに見返した。相変わらず揺らぐことない瞳と無言で暫し見つめ合った後、俺は月山国光のベンチへと歩き出した。

新たに抱いた闘志を胸に、俺は試合が始まるその時を今か今かと待ちわびた。


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