とある日のこと、見慣れない奴と円堂監督が話していた。

深緑色の長い髪に濃緑色の軍服のような服を着た俺と同い年くらいのそいつは、見たこともない顔と格好からして明らかに雷門の生徒ではない。

どこか普通とは違った空気を纏ったそいつを見ていると、俺の視線に気付いたのか突然そいつが俺へと振り向いた。

「円堂守、あれが君の教え子かい?」

その一言に円堂監督が俺に気付いて振り向いた。そのまま突っ立ているのもどうかと思い、俺は円堂監督たちのいる方へと足を進めた。

「円堂監督、そいつは誰ですか?」

明らかに俺たちと同世代なのに円堂監督をフルネームで呼び捨てし、敬語も使わない相手に俺は不信感を露にしながら質問した。そんな俺の質問に円堂監督は隣に立つそいつを見てから俺へと顔を向けて話し始めた。

「あぁ、こいつはミストレっていって俺の仲間で友達なんだ」

紹介された奴の名はミストレと言うらしい。紹介された当の本人は挨拶をすることもせず、ただ真っ直ぐに俺を見ていた。その目は何かを見定めているかのようで、正直いい気はしない。

それにしても円堂監督の言う仲間で友達とはどういうことだかいまいち分らない。こいつもまた円堂監督と共にフィフスセクターと戦っている仲間ということなのだろうか。

「ミストレ、こいつは俺の教え子で霧野っていうんだ」

円堂監督が今度は俺を紹介した。先程相手にされたのと同じように、俺も挨拶の言葉をかけることなく相手を見返した。

お互い何の言葉を交わすことなく見合う中、不意に円堂監督の携帯電話の着信音が鳴り響いた。どうやら電話がかかってきたらしい。円堂監督がポケットから携帯電話を取り出し、電話に出るため俺たちに断りを入れようとして口を開こうとした時だった。

「オレは構わないよ、円堂守」

円堂監督が言うより先に奴が言葉を口にした。その言葉に円堂監督は奴から次いで俺へと電話に出てもいいかと確認するかのように視線を送ってきたので、俺はどうぞと一言だけ返した。

悪いと一言断って円堂監督は俺たちに少しだけ背を向けて電話に出た。そんな円堂監督の姿から目の前の相手へと視線を戻せば、そいつはにやりと口端をあげて笑ってみせた。

「君はオレと円堂守の関係に納得していない、そうだろ?」

初めて相手から俺に対して発せられた言葉は、まるで俺の考えを見透かしたかのような言葉だった。円堂監督へとちらりと視線をやれば、先程の声が聞こえていなかったようで円堂監督はこちらへ振り向くこともなく電話を続けていた。

「一体お前は何者なんだ」

目線を円堂監督から目の前の相手へと戻して言葉を投げかければ、目の前の人物は先程と同じ笑みを浮かべて言った。

「円堂守の言った通りさ」

それ以上でもそれ以下でもなく、それが紛れもない真実だと目の前の相手は告げる。

「それじゃ納得出来ないから聞いてるんだ」
「だろうね」

なんだこいつはと言いたくなるような相手の話ぶりに俺は睨みつけるような視線を向けた。そんな俺を見てまるで楽しんでいるかのように奴は続ける。

「知ったところで意味なんてないさ。もう君と会うこともないだろうしね」

自分から話をふってきたくせに、こいつは俺の質問に答える気なんてさらさらないらしい。それにさっきからこいつの発言は的を射ないものばかりで話にならない。こいつは一体何がしたいんだと奴を見やれば、今まで動くこともなかった奴が俺へと向って歩みを進めてきた。

「せいぜい君たちで今のサッカーを変えてみせなよ」

すれ違いざまに言われた台詞は、話はこれでおしまいだと言わんばかりのものだった。勝手に話を終わらせようとする奴に話はまだ終わっていないと振り返れば、そこに奴の姿はなかった。

「悪い、待たせたなってミストレは?」

そこへ電話を終えた円堂監督がパタンと携帯電話を折りたたみながら振り向いた。先程まで隣にいたあいつが突然消えたことに円堂監督も不思議そうにきょろきょろと辺りを見回した。

「・・・あいつなら消えました」

ありのまま起こったことを伝えれば、円堂監督はぴたりと動きを止めた。

「そっか。まぁ、あいつはいつも急に来て急に帰るからな」

あいつらしいと言う円堂監督の言葉は、先程行われたやり取りは夢などではなく現実に行われたものだったと俺にもう一度認識させた。というか俺の消えましたって発言に対して何の疑問を浮かべない円堂監督の態度から察するに、あいつが突然消えるのは円堂監督にとっては驚くことでも何でもないらしい。

次はいつ来るかななんて呟く円堂監督に俺がもう来ないでいいですと言えば、円堂監督は不思議そうな顔をした。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -