「新しい監督、どう思います?」
「いいんじゃね?」

いつもの軽いノリで返事をする浜野に速水はため息をついた。最初こそ新しい監督の考えについていけないとばかりに南沢の意見に同意し、早々に河川敷に行かないと言いだしていたのになんと変り身の早いことか。

久遠が雷門を去り、間髪入れずに新しい監督の就任。当たり前と言えば当たり前のことだが、速水には素直に受け入れられなかった。

厳しいところもあったが、久遠は冷静な判断と落ち着いた雰囲気で頼りになる監督だった。そして誰よりも自分たちのことを考えてくれていた。しかし新しい監督はどうだ。力強さこそ感じるが、若く明るい雰囲気を持ったまだまだ若輩者という言葉が似合う青年だ。

「俺は、あの監督苦手かも・・・」

管理サッカーに似つかわしくない明るい雰囲気が、そして自分と違いすぎるあの雰囲気が。そして何より明るすぎて眩しすぎるあの人が。

「そっか?俺はいいと思うけどな、新しい監督」

そんな速水とは対照的に浜野は新しい監督のことを気に入ったようだ。基本的にマイペースで人や物事に無頓着な速水が誰かを気に入るなんて珍しい。

「どうしてそう思うんですか?」
「だって何だかすごいことしてくれそうじゃん」
「すごいことって具体的になんですか」
「んー、わかんないけどさ、何かやってくれそうな気がする」

これ以上聞いても浜野が同じような答えしか出さない気がして速水は聞き返すのをやめた。

(でも、もし本当に楽しくサッカー出来るなら・・・)

不安の中に芽生えた期待を抑えずにはいられない。きっと他の部員も思うことは全員一緒だろう。

頭の中で色々巡らせてみたところでこの先のことなんてどうなるか分からないし、結局なるようにしかならないのだ。ならば今は流れに身を任せて新しい監督についていくしかない。

「明日から学校で練習って言ってたけど、どんなことすんのかなー」

人の気持ちも露知らず、のん気に明日の部活について考える浜野の隣で速水はこの先の雷門中サッカー部を思い、また一つため息をついた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -