グラウンドに向かう途中、なんとなくいつもと違う道を通ろうと思った。特に何を考えていた訳でもなんでもない、ただの気まぐれだ。少しだけ遠回りにはなるが、練習時間まではまだまだ時間に余裕があるし問題もない。

少しばかり涼しい日陰の道から出て日差しの当たる道を歩く。眩しすぎる日差しに空を見上げれば、雲一つない青い空がただひたすら続いている。馬鹿みたいによい天気だなと思いながら視線を真っ青な空から戻して少し歩けば、道端にしゃがみ込んでいる見知った姿を見つけた。

「何やってんだよ」

何かを見てしゃがみ込んでいるであろう円堂の横に立ち止まって声をかければ、俺の声に気付いた円堂の視線が俺へと向けられる。

「あ、南雲。こんなとこで会うなんて珍しいな」

俺の質問に答えを返すでもなく笑う円堂の肩越しからは項垂れたひまわりが見えた。どうやら円堂はこのひまわりを見ていたらしい。ひまわりは重い頭を支えられなくなったのか項垂れており、葉の色も悪いという有様だ。あと少しで咲きそうではあるそのひまわりだが、今の状態を見るにこのままでは花を咲かせる前に枯れてしまいそうなほどだ。

「このひまわりさ、ちょっと前まで元気だったのに最近ずっとこうなんだ」

俺の視線の先にひまわりが映っていることに気付いた円堂の言葉からは円堂がよくこの場所にやって来ていること、そして円堂がこのひまわりの成長を楽しみにしていたであろうことが伺えた。

「なんでこんなになっちゃたんだろうな」

どこか寂し気な円堂の声に俺はあぁと小さく声をあげた。

「なんでって最近雨が降ってないからだろ」

ひまわりの様子はどう見ても水不足によるものだ。こんな人通りのない道にあるひまわりは誰に水を与えられることもなく今まで生きてきたのだろう。この項垂れたひまわりにとって雨だけが水を取る唯一の手段だったに違いない。このひまわりが項垂れていることも、ここ最近雨が降ってないことを考えればすぐに分かることだ。もしかしてこいつはそれに気付いていなかったのかと円堂を見やれば、円堂はぱっと顔を輝かせて俺を見ていた。

「そっか!確かに最近雨が降ってなかった!」

すごいな南雲、と嬉しそうに笑いながら立ち上がる円堂に、まさかこんな単純なことに気付いていなかったのかと思ったが、こいつの頭の中はサッカーでいっぱいなことを考えれば別に驚くことでもなんでもないことだと気が付いた。なんというかこいつらしい。

「よし、そうと分かれば水取りに行ってくるな!」

善は急げだ、そう言って今にも走り出しそうな円堂に行って来いと一言声をかければ、円堂はくるりと背中を見せて走り出した。サッカーでも何でもこうと決めたらすぐ行動に移す円堂のこういうところは嫌いじゃない。走り出した円堂の背中を見ながらそんなことを思っていると、円堂が何かに気付いたように突然あっと大きな声をあげて足を止めた。どうかしたのかと思って見ていれば、円堂がこちらへと振り向いた。

「南雲、ありがとうな!」

大声でそう言って少し離れた場所から笑顔で手を振る円堂。別に礼を言われるほど大したことをした覚えはない。それでも心底嬉しそうに笑う円堂にそれを言ってしまうのも何となく気が引けたので俺はそれを言うのをやめておう、と一言だけ返事をした。

俺の返事に円堂はにっと笑い、今度は振り向くことなくその場を走り去って行った。小さくなる円堂の背中から項垂れたひまわりへと視線を移し、俺は誰に言うわけでもなく心の中でよかったなと言葉にせずに呟いた。


数日後、あのひまわりが綺麗に咲いたから見に来いよと円堂に誘われた。




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