朝起きて携帯電話で時間を確認すれば、アラームの鳴る時間より早い時間だった。まだベッドの中にいてもいい時間だったが、俺は携帯のアラームを解除し、ベッドから下りて部活に行くために着替えを始めた。身支度と朝食を早々に終わらせ、いってきますと声をかけて俺はいつもより早く家を出た。

家を出ると、朝の冷たい空気が身に沁みる。この時期の朝は本当に寒い。でもサッカーをして体を動かせば、そんなことはまったく気にならなくなる。そう思うと早くサッカーがしたくて俺の足取りもいつもより速くなった。

普段より人通りの少ない通学路を通って学校へと入ると、学校内もあまり人気がなく、とても静かだった。たまに他の部活動の生徒とすれ違いながら、俺はサッカー棟に向った。

サッカー棟の入り口の自動ドアの前に立てば、自動ドアが静かな音を立てて開く。しんと静まり返ったサッカー棟に入り、ファーストルームのドアが開くと、そこには既に先客がいた。

「おはようございます」

挨拶の言葉をかければ、円堂監督は手元に持っていた資料から顔をあげ、俺へと顔を向けた。

「あぁ、おはよう、一乃」

早いなと言いながら円堂監督は俺へと挨拶を返した。部屋の中には円堂監督しかおらず、他の部員の姿はない。音無先生や鬼道コーチの姿もないが、きっと二人とも既に学校には来ていて、部活の準備を始めているのだろう。

そういえば今までこうやって一対一で円堂監督と話す、もとい挨拶するなんてことは初めてだなんて思っていると、円堂監督があっと声をあげた。

「今日は一乃の日だな」

にっと笑顔でかけられた言葉に俺は疑問を浮かべた。今日は俺の誕生日というわけでもないし、何かの記念日という日でもない。

「俺の日、ですか?」

思わず聞き返した俺に、円堂監督はだってそうだろと続けた。

「一月七日、一乃七助、ほら、一乃の日だ」

満足そうに笑う円堂監督に、俺はそういうことかと理解した。一月七日と俺の名前。今までそんなことを言われたことなどなかったし、自分自身も気にしたこともなかったから気付かなかった。

言われてみれば、と冷静に考える俺の前では円堂監督がいつもと違い、まるで小さな子供みたいに楽しそうに笑っていた。自分よりも年上の人に対して子供みたいだなんて思うのは少し失礼かとも思ったが、本当に楽しそうに笑う円堂監督に、俺の顔も自然と笑顔になった。

それに円堂監督が俺の名前を覚えていてくれたことが嬉しかった。円堂監督が俺の名前を知らないとは思ってはいなかったが、こうやって声に出して名前を呼ばれると、俺のことも知っていてくれてるんだと改めて感じられてなんだか嬉しかった。

「一乃の日なんて初めて言われましたよ」

くすりと笑ってそう返せば、円堂監督はそうなのかとちょっとだけ驚いたような声をあげた後にまた楽しげに笑ってみせた。

そんな穏やかな空気が流れる部室に神童と霧野がやって来て、笑いあう俺と円堂監督を見てどうしたのかと不思議そうな顔をした。それに気付いた円堂監督が、神童と霧野にも今日は一乃の日なんだと楽しそうに言ってみせた。




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