「もうね、時間が無いの。」
「姉様…、」
 
穏やかに優しげに落ちた音色。
 
「あの人には時間が無い。だからね、焦ってる。
焦って焦って、それが余計に苦しさを増していく。」
 
強く強く握られたクナイ。姉様の手が月明かりにも分かる程に力が籠り白い。
 
「お願いかすが、」
 
私が会ったのは、強い強いあの人ではなかった。
 
「あと少しなの、」
 
どこまでも弱弱しく儚い人。
 
「お願い、」
 
女の人。大切な人。
 
「あと少しだけ、そっとしておいて。」
 
たいせつなねえさまが、ないていた。
 
「もうもたないから。貴女の大切な人に危害は及ばないから…、」
 
諦めたのだと、ないていた。
 
「それまでに終ってしまうから。」
 
ないていたんだ。
 
「その時まで、」
 
大切な者を想って、泣いてたんだ。
 
「お願い。」
「勝手な事を言わないでくれないかな。」
 
病魔の様に白い男が姉様の声を切り裂いた。
病的な白に姉様の赤が色を付ける。瀕死の体で己の背を裂いた男に、振向く事無く姉様は笑んだ。
しあわせなのだ、と微笑んだ時と同じかおで。
 
end.