私にとって、貴女や佐助君が居る里も愛しかったから。
 
「姉様…。」
 
けじめなのだと、あの時あの人は言ったのだ。
かすがは静かに思い返していた。
 
「つるぎよ…。」
 
真っ暗な夜の様に、優しく冷たいあの人は言ったのだと。
愛しい人の隣で。かすがは思い返していた。
 
「つらいのですか?」
「いいえ謙信様。」
 
かつて分からなかったかすが。でも今なら分かるのだ。
 
「姉様はあいつを選び、私は謙信様を選んだ。」
 
分かるのだ。同じなのだ。どちらも愛しく大切なのだったと。
 
「私は、姉様も謙信様も大切です。大切だから…」
 
だからこそ、選ばなければならないのだ。
 
「私は剣。謙信様を護る剣。」
 
あのいけ好かない軍師の懐刀と名高い夜の人に会うのが怖い。
あの人は恐ろしく強い。遠目に見たあの人は冷たく迷い無い忍。迷う事無く一閃。多くを屠る人。
怖いけれど会いたい。
大切な人。優しくて穏やかだった人。今も尚愛しい人。
 
「私は謙信様を選んだ。姉様に見て欲しい。私が選んだ事を。
そう、思うのです。」
「…ぞんぶんにちからをふるいなさい、つるぎよ。」
 
今宵私はあの人に会いに行く。あの男を止める為。
 
「はい。」
 
姉様、かすがも選びました。
 
end.