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芳名帳に名前を記入して御祝儀を渡したあと、席次表で自分の席を確認して驚いた。
私一人だけ知らない男性達と一緒の席になっていたからだ。
かつて新婦も一緒だった学生時代の仲良しグループは別のテーブルに固まっていて、見事に私だけ仲間外れ状態である。

しかし、せっかくのお祝いの席でこんなことで騒いでも仕方ないので、恐る恐る自分のテーブルに向かうと、すぐ隣の席にいた年輩の男性がわざわざ立ち上がって私の椅子を引いてくれた。

「すみません、ありがとうございます」

「いや、君のような可愛らしい女性が隣だとは、新郎新婦に感謝しなければならないな」

恐縮しながらお礼を言えば、その人は穏やかに微笑んでそう言った。
と言っても、軟派な印象は全くなく、それどころかこんな素敵な男性が隣なんてむしろラッキーなのは私のほうだとさえ思ったくらいだ。

「土方だ。向こうは永倉という。今日はよろしく、お嬢さん」

「苗字なまえです。こちらこそよろしくお願い致します」

土方さんは何か武道をやっているのか、姿勢がぴしっとしていて美しく、その所作の一つ一つが洗練されていて、実に格好いい。
真っ白な長い髪はサラサラで、年輪が刻まれていてもはっきりわかるほどその端正な顔立ちは、まさしく美老人と呼ぶべき魅力的なものだった。

永倉さんとは長い付き合いなのか、随分親しげに会話している。
長年の親友というよりは、土方さんのほうが立場が上なのかなと感じられる関係のようだった。

「新郎新婦のご入場です」

本日の主役二人の登場を拍手で迎える。

それにしても、お洒落な会場だ。
生花をふんだんに使った飾り付けはとても華やかで、花が好きだという新婦らしい演出だなと感じた。
テーブルに料理が並ぶと、テーブルフラワーによってそれが引き立てられるようになっているのも素晴らしい。

「なまえさんは新婦のご友人だそうだね」

「はい、高校時代からの友人です」

土方さんに尋ねられるままに、学生時代のエピソードを話していると、キャンドルサービスの時間になった。

新郎新婦がキャンドルを持って各テーブルを回っている。

「なまえ、ごめん」

私達のテーブルまで来ると、新婦は小さな声で謝って来た。

「大丈夫、気にしないで。今日は本当におめでとうございます」

「ありがとう。土方さん、なまえをよろしくお願いします」

「ああ、任せてくれ」

…ん?ん?
どういうこと?

問いかける間もなく、二人は次のテーブルに向かってしまった。

もしかして、私がこのテーブルにされたのは

「なまえさん」

「は、はい」

「このあとの二次会は参加されるのかな?」

「はい、その予定です」

「良ければ私にエスコートさせてもらえないだろうか」

「そ、そんな…」

「迷惑ならば断ってくれて構わない。だが、少しでも悪くないと思ってくれるのであれば、是非私にエスコートさせてくれ」

「え、えっと」

「なまえさん」

「う…よろしくお願いします」

「ありがとう」

土方さんは相変わらず穏やかに微笑んでいるが、さっきの有無を言わせない威圧感はなんだったのだろう。
もしかすると、土方さんは人の上に立つ仕事をしているのかもしれない。
自然と人を使えるような、そんな立場の人なのかも。
それだと私のような小娘ごときが逆らえなかった理由がわかる。

「お色直しのようですな」

永倉さんの言葉で、はっと我にかえり、濃紺のドレスに着替えてきた花嫁がドアから出てくる瞬間に間に合った。

「やはり君のような若い女性は純白のウェディングドレスに憧れるものなのかな」

「そうですね。でも、お相手によっては白無垢でもいいかなとも思います」

「なるほど」

一瞬、土方さんの目が不穏に輝いた気がした。

「良いことを聞いた。私も花嫁には白無垢を着てほしいと思っていてね」

「いいですよね、白無垢も」

「ああ、きっと良く似合うはずだ」

土方さん、そんな風に思っている相手がいるんだな、なんてのんきに考えていた私は、このあとの二次会で土方さんにしっかり囲い込まれて熱烈に口説かれることになるのだが、もちろんまだそんなことは知るよしもなかった。


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