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『抽選見合い結婚法』が制定されて一年。
国民は未だ混乱の最中にあった。

この法案の対象者は、二十歳以上の男女で、 子供のいない独身者である。
本人の意思に関係なく無作為に相手がマッチングされるため、気にいらなければ、二人までは断ることができる。
しかし、どうしても気にいらずに三人目を断った場合は、テロ対策活動後方支援隊に二年間従事しなければならない。
除隊後の職場復帰は政府により保障されている。
尚、断られる側に人数制限はない。

幸いにも、私は最初にマッチングされた相手とごく平和的に結ばれることが出来た。

「いい天気だなあ」

11月も中旬を過ぎて、最近は朝晩かなり冷え込むようになっていたが、今日はお日様に照らされているせいか、いつもより暖かい。
絶好のお洗濯日和だ。

「ああ、今日は良い天気だ」

後ろからやんわりと抱き締められ、びっくりして振り返る。

「歳三さん!帰っていらしたんですか?」

「たった今、な。お前の姿が見えたので庭に回って来たところだ」

歳三さんの唇が私の唇に重ねられる。
少しかさついていた唇の感触は、口付けを交わす内に自然と潤って気にならなくなった。
甘やかすように背中を撫でられて、うっとりと身を任せる。

歳三さんは今年70歳を迎えるが、全然そうは見えない。
纏う気が老人のそれではないし、長いあご髭と顔に刻まれた皺が年齢を物語っているものの、切れ長の瞳の力強さと鋭さが全く老いを感じさせない。
今尚若々しい気迫に満ちた美老人である。

夜の夫婦生活においても同様だ。

歳三さんの年齢を感じさせない精力と、老獪な手練手管に、私ははしたなくも毎回あんあん鳴かされるはめになっている。

この様子なら年内にも跡取りの顔が見られるだろうとは、歳三さんの長年の戦友である永倉さんの見立てである。

「洗濯物は干し終えたのかな?」

ただいまのキスにしては情熱的過ぎる口付けに腰砕けになってしまった私を支えながら歳三さんが笑った。

「は、はい」

「では中に入ろう。風が冷たくなってきた。身体を冷やしてはいけない」

「はい、歳三さん」

歳三さんに肩を抱かれて室内に入る。

そろそろ冬の足音を感じさせる冷たい一陣の風が、歳三さんの長い白髪を揺らして吹き過ぎていった。


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