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今日は珍しく早く仕事を上がれるというので、尾形さんと外で待ち合わせて食事に行くことになった。

待ち合わせ場所として指定されたカフェテリアでカフェラテを頼み、涼しい店内で寛ぎながら待っているのだが、こんなに明るい内から外で尾形さんと会うのは久しぶりだなとしみじみ思う。

いつもは、土曜日の夕方に尾形さんが迎えに来て、尾形さんの家に行って食事を作って二人で食べてお風呂に入り、セックスをして一緒に寝る、という感じなので。

ちなみに、一週間分の欲を一気に解消してやると言わんばかりに容赦がないため、日曜日はほぼベッドから出られない。
それでいて、時には別に時間を作って花火大会やプールに連れて行ってくれたりと、しっかりポイントは押さえているのだから、さすがである。
そんな人に狙い撃ちにされて逃げられるわけがない。

はあ…、と溜め息をつきながら窓のほうへ視線を向けた私はギョッとした。
窓の向こう側に男の人がべったり貼り付いていたからである。
しかも、それはよく知っている人物だった。

「白石さん!?」

思わず声に出してしまっていた。
白石さんはパッと顔を輝かせると、ダダッと駆け出して店の入口から入って来た。

「なまえちゃん、俺のこと覚えてるの!?」

「もちろんです。そういう白石さんも記憶があるんですね」

「当たり前だよ!なまえちゃんのこと忘れるはずないって!」

「白石さん…近いです…」

私の手を両手で握ってぶんぶん上下に揺らしながら、白石さんは顔を近付けてくる。

「ギャッ!」

あまりに近い距離に困惑していると、白石さんが叫んで手を離した。
頭を押さえて痛そうに呻いている。

「俺の女に気安く触るんじゃねえよ」

尾形さんだった。
どうやら持っていた書類鞄の角を白石さんの頭に思い切り落としたらしい。
相変わらず容赦がない人だ。

「なまえちゃんてば、現世でもまた尾形の餌食になっちゃってんの!?」

「餌食って…」

「まあいいや。せっかく再会出来たんだから連絡先交換しよッ」

「えっ、でも、あの」

「ほら、早くスマホ出してぇ」

尾形さんがにっこり笑った。
あ、これダメなやつだ。

「俺の女だと言っただろうが」

尾形さんは白石さんの膝裏を蹴ってなぎ払った。
きゃっと可愛らしい叫び声をあげて白石さんが膝から床に崩れ落ちる。

「テメエも懲りねえ奴だな、白石」

「そういう尾形は相変わらず鬼畜ッ!」

「行くぞ、なまえ。場所を変える」

「は、はい」

尾形さんに手を引かれて店を出る途中、白石さんにこっそり何かを握らされた。
「後で連絡して」と素早く囁かれる。

尾形さんの目を盗んで?
不可能に近いミッションだなあ…。

「仕切り直しだ」

尾形さんに連れて来られたのは、最近評判だというイタリア料理店だった。
私もテレビで見たことがある。

「あれ?お酒飲むんですか?」

「ああ。帰りはタクシーで送ってやる」

「大丈夫です、電車で帰れますよ」

「いいから、甘えておけ」

ちょっと強引だけど、私のことを心配してくれているのはわかるのでそれ以上言い返せない。

「なあ、なまえ」

料理を食べ終えて人心地ついたところで、尾形さんがテーブルの上の私の手に自分の手を重ねた。

「俺の家で一緒に暮らさねえか」

「えっ」

「前から考えてはいたんだが、やっぱりお前を一人にしておくのは心配だ」

尾形さんが指の腹で私の指をなぞる。
たったそれだけの触れ合いなのに背筋がゾクッとした。

「浮気なんてしませんよ?」

「今日みてえなことがあるだろ」

やっぱり白石さんのことが引金になってしまったみたいだ。

「いま住んでるとこの契約期限がもうすぐ終わるのは知っている。そのまま更新せずに俺の家に来いよ」

「でも、あの」

「嫌なのか」

あの黒々とした昏い目で見据えられると、嫌だとは言えなかった。

「なら、決まりだな」

尾形さんがニヤリと笑う。

「実は大家とお前の親にはもう了解をとってある。引越し業者も手配した。お前は身ひとつで来ればいい」

「ちょ、尾形さんッ?」

「喜べよ、なまえ。これからは毎日俺と一緒にいられるんだぜ。毎晩たっぷり可愛がってやる」

ま、毎晩!?

どうしよう。死ぬかもしれない。


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