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「なまえ。お前、ビリヤードはやったことあるか?ダーツは?」

暑いから軽めのものをと、朝食に雑炊とチキンサラダを出したら、それを綺麗に平らげてから尾形さんが尋ねてきた。

基本、和洋中何を作っても美味いと言って食べてくれるので助かっている。
冬になったら毎日あんこう鍋でもいいぞと言われているのだが、何だかそれはそれで怖い気がした。
どうしても殺鼠剤が頭にチラついてしまって。

「どっちもやったことないです」

「何事も経験だ。これからプールバーに連れて行ってやる」

プールバーというと夜営業しているイメージがあったのだが、尾形さんがよく行くお店は24時間営業なのだそうだ。
早速車で連れて行かれたところ、いかにもオトナの遊び場といった雰囲気のお店だった。

最初はビリヤード。
簡単なゲームからということで、まずは尾形さんが見本を見せてくれた。
いつものように無造作に片手で髪を撫で付けてからキューを構えるのだが、これがまた様になっていてかっこいい。
狙撃をする時の尾形さんを思い出してときめいてしまった。
狙った玉は見事にポケットの中へ。

「凄いです、尾形さん!」

手放しで褒め称えると、尾形さんはヤマシギを獲ってきた時のように自慢げに胸を張った。

「腕のいい狙撃手だったからな。これくらいはお手のものだ」

私はというと、尾形さんにぴったり後ろに貼り付かれて、手取り足取りフォームから突き方まで丁寧に教えて貰ったのだが、あまり上手いとは言えない出来だった。
でも、実際にやってみると結構楽しい。

「どうだ?楽しかったか?」

「はい。尾形さんには全然敵いませんでしたけど」

「そりゃそうだ。一日で追い抜かれたら俺の立場がねえだろ」

宥めるように尾形さんに頭を撫でられる。
言われてみれば、確かにそういうものかもしれない。

ビリヤードの次はダーツに挑戦してみた。
これも一番簡単なゲームからということで、やはり先攻は尾形さんが。

スローラインと呼ばれる投げる場所に、ダーツボードに対して斜めに立ち、ダーツを構えると、シュッと紙飛行機を飛ばすような自然な動きでダーツを投げた。
これがまた見事にど真ん中に突き刺さったのを見て、私は思わず拍手してしまった。

「尾形さん、凄い!かっこいい!」

「もっと褒めてもいいぞ」

尾形さんは背中が反り返るほど胸を張っている。

続いて私も挑戦してみたのだが、ビギナーズラックとはいかず、一度もど真ん中は取れなかった。
近い場所までは行ったんだけどなあ。

「なかなか筋がいい。回数をこなせば上手くなるぜ」

「本当ですか?」

「ああ、これからは時々連れて来てやる」

カウンターに座ってドリンクを注文すると、バーテンダーのおじさんがにこやかに話しかけてきた。

「尾形ちゃんが女の子を連れて来るなんて、初めてじゃないか?」

「こいつは特別だ。俺の女だからな」

「初めまして、お嬢さん」

「苗字なまえです。初めまして」

私にはフローズンカクテルを、尾形さんにはウィスキーを出して、バーテンダーのおじさんは尾形さんが学生時代から通っている常連さんなのだと教えてくれた。
女の人を連れて来たのは私が初めてだと聞いて安心したのは内緒だ。
尾形さんに知られたら絶対からかわれるに違いない。

「尾形さん、車で来てるのにお酒飲んで大丈夫ですか?」

「代行運転を頼んである」

そろそろ来る頃だ、と尾形さんと待っていると、体格の良い男性が入口から入って来るのが見えた。

「お待たせしました。代行運転の谷垣で…す…?!」

「谷垣さんッ?」

「よお、谷垣一等卒。久しぶりだな」

はじめから知っていたのか、尾形さんだけは動揺した様子がない。
谷垣さんと私は顔を見合わせて複雑な表情で挨拶を交わした。

「まさか、こんな形で再会するとはな…」

「あの旅ではお世話になりました」

「おい、谷垣一等卒。帰りは安全運転で頼むぜ。万が一事故ったりしたらわかってるだろうなあ?」

「は…はい、かしこまりましたッ」

尾形さん、谷垣さんをいじめるのはいい加減やめてあげて下さい。


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