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暗闇の中で息を殺してじっとしていると、カンカンという音が移動しているのがわかった。

私達を探しているのだ。

ゾッとして思わず身を縮ませる。

ここは彼らのねぐらだ。
都丹庵士率いる盗賊達はこの真っ暗闇の中でも自由に動ける。
見つかるのは時間の問題だった。

ふとアシリパちゃんが私の手に何かをそっと握らせた。

「塘路湖のペカンペだ」

もしかして、トゲトゲしたこれを床に撒いてあるということだろうか。

「ぐううッ」

やはりそうだった。
ペカンペを踏み抜いてしまったらしい盗賊が呻き声をあげる。

尾形さんが瞬時に反応して、呻き声が聞こえた場所へ向かって狙撃した。
ドンと音がしたのは、恐らく先ほどの盗賊が頭部を撃ち抜かれたのだろう。

またもや誰かが近づいてくる気配がしたが、彼もまたアシリパちゃんが撒いたペカンペを踏んでしまい、呻き声を上げたので杉元さんによって倒されていた。
その攻撃で吹っ飛ばされた盗賊が壁にぶち当たり、打ち付けられて塞がれていた板に僅かな隙間が出来る。
そこから漏れ出た光と音で敵の存在に気付いた杉元さんが、振り向きざまに武器をふるって相手が持っていた銃を弾き飛ばした。

そこからは肉弾戦だ。
わかったのは、もつれあいながら殴りあっているらしい、バキッ、ガッという音が聞こえてくるだけで、どちらが優勢なのかもわからない。

「杉元どこだ?大丈夫か?」

「アシリパさんはそこを動くなッ」

アシリパちゃんが心配してかけた声に、すぐに杉元さんから返事があった。

「杉元さ…」

「動くな。じっとしていろ」

「尾形さん」

手探りで尾形さんを探すと、手首を握られて引き寄せられた。
ぴたりと身を寄せると、服を着ていないから直に尾形さんの体温が伝わってくる。

「尾形さん、銃は」

「弾切れだ。恐らく残る敵は都丹庵士一人。杉元でもなんとかなるだろ」

手を握られたところにちょうど尾形さんの胸板がある。
ドクドクと力強い鼓動が伝わってきて、こんな状況なのに私はすっかり安心してしまった。
尾形さんがいれば大丈夫。
そんな風に思えて、暗闇への恐怖が消えていく。
怖い人なのに不思議だ。

それからどれくらい経っただろう。
時間にしてはそれほどではなかったかもしれないが、何だかやけに長く感じられた。

「尾形さん、何か音がしませんか?」

「音?」

壁のほうからだ。
バキバキ、メキッと音を立てて、壁が破壊されたかと思うと、牛山さんがヌッと入ってきた。
相変わらず豪快な人だ。

「お嬢…また会ったな」

「チンポ先生ッ」

アシリパちゃんが嬉しそうに歩み寄る。
牛山さんが破壊した部分から差し込んだ光のお陰で室内が明るく照らしだされ、杉元さん達の姿も見えた。
捕獲されている都丹庵士の他に、永倉さんと土方さんが一緒にいる。

「よくここがわかったな?」

「……外にいる犬っころだ」

土方さんの言葉にそちらを見れば、外にリュウとチカパシくんと白石さんがいた。
言うまでもなく二人とも全裸だ。
私はさりげなく目を逸らした。
見ちゃったけど見なかったことにしよう。

土方さん達は、都丹庵士が硫黄山や屈斜路湖周辺に潜伏しているという情報をつかんでいて、夜明け前にこの辺りで唯一営業している旅館に到着したところだったそうだ。

話し合いの結果、都丹庵士の身柄は土方さんに任せることになった。

「こんな暗いところで隠れて暮らして、悪さをするため外に出るのは夜になってから…これではいつまで経ってもお前の人生は闇から抜け出せない」

アシリパちゃんの真っ直ぐな言葉に、都丹庵士は小さく「参ったな、こりゃ…」と呟いた。

これにて一件落着である。

外に出ると、谷垣さん達もいて全員が揃っていた。
もちろん、みんな全裸だ。

私は尾形さんにくっついて、なるべく彼らを見ないように努めた。
中には素晴らしい光景だと喜んで眺めたいという人もいるかもしれないが、一応嫁入り前の身としては最後の恥じらいまでは捨てきれない。
たとえもう身体は清らかな乙女ではないとしても。

「犬より役に立っとらんぞ、谷垣一等卒。秋田に帰れ」

尾形さんは微塵も容赦がない。

「でも、みんな無事で良かったです」

尾形さんのせいで言葉に詰まって申し訳なさそうにしている谷垣さんを励ますべくそう言うと、横合いから白石さんが視界に飛び込んできた。

「なまえちゃん!見て見てッ、どうよ、俺のこの肉体美!」

「きゃあッ!」

「テメエ…俺の女に汚ねえもん見せつけてんじゃねえよ」

「わッ、待て待て、尾形!冗談!冗談だからッ」

尾形さんがジャキンと銃を構えると、白石さんは青ざめて両手をあげて降参の意思を示した。
もう弾が入っていないことを白石さんは知らないのだ。

尾形さんはフンと鼻で笑って小銃を担ぎ直した。
おかしくなって笑ってしまった私に、みんなの笑い声が重なって響き渡る。

光に満ちた明るい一日が始まろうとしていた。


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