「なまえ!」 「アシリパちゃん!」 互いに再会を喜び、がしっと抱きしめ合う。 そうしたところで感じた違和感は、抱きしめた少女の身体が記憶にあるよりも成長しているからだとすぐにわかった。 「アシリパちゃんが成長してる…!」 「ああ、いまは畜産高校に通っている」 「そっか、大きくなったんだねぇ」 「なまえちゃん、それ親戚のおばちゃんの台詞」 「杉元さん!」 「久しぶり、なまえちゃん」 またもや感動の再会とばかりに杉元さんに抱きつこうとしたのだが、後ろからお腹に回された腕に引き寄せられたせいで、それはかなわなかった。 杉元さんが私の後ろにいる尾形さんを睨み付ける。 「邪魔すんなよ、尾形!」 「こいつは俺のだ」 「尾形ぁ…」 「尾形ちゃん…」 アシリパちゃんと白石さんが残念な人を見る目で尾形さんを咎めるが、尾形さんはフンと鼻を鳴らしただけで私を離そうとはしなかった。 どうしてこうなっているのか。 それは私が尾形さんに隠れて白石さんと連絡を取ろうと試みた日まで遡る。 買い物に出掛けた帰りに、白石さんに渡されたメモに書かれていた番号に電話したまでは良かった。 白石さんはすぐに出てくれて、お久しぶりですなんて挨拶をして何気なく振り返ると、尾形さんがすぐ後ろに立っていたのだ。 にっこりと笑って。 その時私が感じた恐怖は、筆舌に尽くし難い。 こうして、あっさりバレてしまったことで、尾形さんが間に入り、白石さんと相談の上でアシリパちゃんや杉元さんに会う日取りを決めてくれたのである。 幸いにも二人は夏休みで東京に遊びに来ていたため、再会の日程はすぐに決まった。 せっかくだからと谷垣さんにも声をかけたら、インカラマッさんと一緒に来ることになった。 「本当はお前らに会わせるつもりはなかったんだ。ありがたく思えよ」 「大体なんでお前がなまえちゃんのスケジュール決めてんだよ」 「一緒に住んでる婚約者なんだから当然だろ」 「…尾形ぁ、ちっとも変わってないな、お前」 杉元さんが呆れたように言う。 「なまえが幸せならそれでいい。尾形、なまえのことを頼んだぞ」 「ああ」 アシリパちゃんの男前な性格は現代でも変わっていなかった。 「みんな、積もる話もあると思うが、まずは店に移動するぞ。白石が予約しておいてくれた」 「おー、じゃあ行くか!」 「白石さん、ありがとうございます」 「もっと褒めて!」 「うるせえ。行くぞ、なまえ」 尾形さんに連れられて歩き出す。 もう、強引なんだから。 白石さんが予約していたのは、都内で唯一アイヌ料理を食べられるというお店だった。 SNSでも人気上昇中だそうで、私達にとっては懐かしい味をもう一度楽しめるだろうという白石さんの配慮から決められたお店である。 お店の一角に陣取って飲み物と料理を頼むと、さっそく宴会が始まった。 「尾形さん、ヒンナは?」 「ヒンナ」 「おい、今の…」 「マジかよ、尾形…」 何故か谷垣さんと杉元さんがドン引きしている。 尾形さんはちゃんとヒンナが言えるようになったんですよ。 本当に美味しい時か、気が向いた時にしか言ってくれないけど。 「それより、酒が足らんぞ。谷垣一等卒」 「は、どうぞ!」 また尾形さんの谷垣さんいじめが始まった。 注意しようとした私の前にグラスがずいと差し出される。 「なまえちゃん、乾杯しよ、乾杯」 白石さんが私の分のお酒を注文してくれたらしい。 せっかくなので、ありがたく頂戴することにした。 「ありがとうございます。頂きます」 「じゃあ、かんぱーい」 「乾杯ッ」 グラスを触れ合わせて、ぐいと中身をあおる。 美味しくて飲みやすい。 これなら何杯でもいけそうだ。 しかし、それが悪かった。 「ゲンジロちゃん、インカラマッさんとはどこまでいったんですかぁ?」 「いや…それは、その」 「なまえちゃんが酔ってる…!」 「全然酔ってませんよぉ」 「酔っ払いはみんなそう言うんだよ」 「尾形さん、ちゅー」 「ん」 「ん、じゃねえ!お前も普通にキスしてんじゃねえよ、尾形!なまえちゃん止めろって!」 「なんだ、羨ましいのか?可愛いだろ、俺の女は」 「なんかのろけ出した!」 こうして楽しい時間は過ぎていき、あっという間にお別れの時間になった。 「アシリパちゃん、行かないで…」 「なまえ…」 「ほら、帰るぞ」 アシリパちゃんに抱きつく私を尾形さんが容赦なくひっぺがす。 「昔に戻ったようで今日は楽しかった。みんなありがとう」 「アシリパちゃん…!」 しくしく泣き出した私とは違い、みんな笑顔で口々に今日は楽しかったと言い合って解散となった。 「尾形さぁん、アシリパちゃんが大きくなってましたぁ…」 「ああ」 「またみんなとお別れなんて寂しいです…」 「そうだな」 タクシーの中で尾形さんに甘えて縋りつく私を、彼は優しく抱きしめてくれていた。 いつも気まぐれなくせに、こんなとき、尾形さんは手放しで優しくしてくれるから困る。 その愛情に依存してしまいそうで。 その夜の間にみんなからメールやLINEで連絡が来たので、これからはいつでも連絡が取り合えるんだとわかった私は、すっかり安心して眠りについたのだった。 |