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仮ごしらえのクチャから出ると、途端に肌を刺すような冷気が押し寄せてきた。
毎度のことながら、思わず身震いしてしまう。

早朝の澄んだ空気は冷たくて、吸い込んだ肺が凍りそうだった。
この寒さにはまだ慣れそうもない。
それでも何とか小川まで辿り着き、これまた凍えそうに冷たい水で顔を洗う。

「はぁ…」

ハンドタオルで顔を拭きながら振り返ると、真後ろの大木に背を預けた尾形さんが立っていた。

「わ、びっくりした…!驚かさないで下さいよ、尾形さん」

「ビビりすぎだ。馬鹿め」

「うう…」

それにしても、全く気配を感じなかった。
軍人さんだからだろうか。
誰もいないと思っていたから、心臓が口から飛び出るかと思うくらいびっくりした。
まだドキドキしている胸を手で押さえる。

「一人で出歩くな。死にたいのか」

「ご、ごめんなさい」

どうやら心配してついてきてくれたらしい。
どこか歪んではいるけれど、時々こんな風に気まぐれのような優しさを見せることがあるから混乱してしまう。
この人のことが未だによくわからない。

「尾形さん、手を出して下さい」

尾形さんは怪訝そうにしながらも、銃を担いでいないほうの手を出してくれた。
その手の平に、一口チョコを乗せる。

「俺はいらん。あの娘にでもくれてやれ」

「アシリパちゃんにもあとであげます。チョコは雪山で非常食になるくらいエネルギー補給になるし、頭を使った時にもいいんですよ」

そう説明すると、納得してくれたのか、尾形さんはチョコを口に放り込んだ。

「どうですか?美味し、んんっ!?」

突然襟首を掴まれたかと思うと、そのまま引き寄せられて強引に唇を重ねられた。

「んー!んー!」

チョコをまとわせた舌がねろりと私の舌に絡みつく。

「甘い」

唇を離した尾形さんが言った。

「今更、これぐらいで騒ぐな」

「だって…」

「お前の身体のことなら、もうよく知っている」

私は赤くなって俯いた。
そうなのだ。
尾形さんとは既にそういう関係なのだった。

「貴重なチョコを分けてあげたのにひどいです」

「礼のつもりだったんだが」

「もう!尾形さんのばか!」

恥ずかしさを誤魔化すために、私はそっぽを向いた。

「いつか元の世界に戻ったら、こんな破廉恥な人がいたんだって言い触らしますからねっ」

「帰れると思っているのか?」

「それは…」

「いや、言い方が悪かったな」

尾形さんの手が優しく頭を撫でて、顔の側面、こめかみから頬にさらりと触れる。
瞬間、首筋がぞくりとした。

「帰してやると思っているのか?」

「尾形さん…?」

「その時が来たら、撃ち抜いてでも止めてやるから安心しろ」

「あ、安心出来ません!」

怖くなって皆の所へ帰ろうと走り出した私の後ろを、一定の距離を保って尾形さんがついてくる。

「学習能力のない女だ。一人で行くなと言っただろう」

「尾形さんのばか!知らない!」

声を聞きつけてチセから出てきたアシリパちゃんに抱きつく。

「尾形、なまえをいじめるな」

「自分の女をどうしようが俺の勝手だ」

「もぉ、また痴話喧嘩してんの〜?」

「痴話喧嘩じゃありません杉元さん!」

他の人達も、なんだなんだと起きてきてしまった。

こうして今日も新しい一日が始まる。


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