「……薬研?」 「悪い、起こしちまったか」 ううん、と返しながら起き上がる。 嘘だ。本当は眠っていたところ、隣にいたはずの彼が動く気配を感じて目を覚ましたのだった。 薬研は既に寝間着代わりの浴衣を着こんでいる。 襖の前まで行っていた彼はわざわざ戻ってきて、上半身を起こしたなまえの裸の肩に畳の上に脱ぎ捨てられていた浴衣を羽織らせてくれた。 「風邪ひくぜ、大将。起きたならしっかり着な」 「うーん…」 まだ半分寝ぼけたままのなまえは、なすがままに浴衣を着せられる。 帯紐をきゅっと締めると同時に、唇にキスを落とされた。 「これでよし、と。手のかかるお姫様だぜ」 「薬研は面倒見がいいから」 「つい甘えちまう、か?悪い気はしないな」 「本当?面倒な女だと思ってない?」 「惚れた女に甘えられるのは大歓迎だ。気にせず甘えな」 「…うん」 繊細な見た目に反して薬研藤四郎は豪胆で男らしい性格をしている。 この少年の姿をした刀に、なまえは文字通りぶっすりと柄まで通されてしまっていた。 こうして逢瀬を重ねるようになってまだ少し。 だがその短い間になまえはすっかり骨抜きにされていた。 彼がいない夜は寂しくて一人で眠るのが辛いほどに。 「薬研」 両手を広げてねだると、はいはい、と抱きしめてくれる。 お互いの熱を分けあってからもう時間が経っていたが、その身体は温かく、引き締まっていて、まだ未成熟ながらにも男としての力強さを感じた。 つい、と顎をつままれて仰向かされ、また口付けが降ってくる。 今度のものは触れるだけではなくて、再び熱を呼び覚ますような情熱的な深い口付けだった。 絡められて吸われる舌が熱い。 「ん……ん……」 薬研の背中に回した手で背骨をなぞるように撫で降ろすと、笑う気配とともに顔が離された。 最後に、ちゅ、と軽く唇を触れあわせてからあたたかい身体が離れていく。 ぽんぽんと優しく頭を叩かれた。 「今夜はもうお預けだ。これ以上やったら大将の足腰が立たなくなっちまうぜ」 「薬研の意地悪」 「意地悪はどっちだか。俺っちの我慢の限界を試してるのか?本当ならまだまだこの腕に抱いていたいんだがな」 戻る時間だ、と笑う薬研に、なまえはしょんぼりしながら頷いた。 朝までには部屋に戻っていなければならない。 そのことはなまえもよくわかっている。 他の刀剣男士達に二人の関係を知られるわけにはいかない。 特に、まだ幼い者もいる彼の弟達には。 しかし、勘の良い者はもう気づいているだろう。 一期一振などは知っていて黙って見守っていてくれているのではないかと思う。 時々心配そうに、けれどもあたたかい眼差しで二人を見ているのはきっと気のせいではない。 「なまえ」 優しく名前を呼ばれる。 涼しげな切れ長の瞳を細めて薬研は微笑んでいた。 「じゃあな。しっかり寝ろよ」 「うん」 もう一度、とすがった自分は本当に彼に甘えていると思う。 優しいキスをして、それから薬研はそっと部屋を出て行った。 残されたなまえは一人布団に戻り、ころりと横になる。 そうして、愛しいひとがいたはずの隣を撫でた。 そこはすっかり冷えきっていて冷たく、その感触にどうしようもなく泣きそうになった。 |