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「バレンタイン?」

密かに皆にあげるバレンタインのチョコの準備をしていたところを山鳥毛さんに見られてしまった。
こんな時間に何を、と訝しむ彼に、バレンタインの準備なんですと弁解する。
バレンタインを知らなかった彼に詳しく説明すると、彼は納得したように腕を組んで頷いた。

「なるほど。鳥たちが喜びそうな催事だ」

「山鳥毛さんは、その……興味はありませんか?」

「君がくれるというのであれば、喜んで」

そんな風に真紅の瞳を優しく細めて微笑みながら言われたら、特別に想われているのではないかと勘違いしそうになってしまう。
以前一口団子をあげた時は、「菓子で、はしゃぎはしないぞ」と、至ってクールな反応だったのに。

「先ほどの説明では、鳥たちに配るのはいつも世話になっている者に渡す『義理チョコ』で、『本命』ではないのだろう?」

「えっと、はい、そうですね」

「小鳥。私は君の『本命チョコ』が欲しい」

「えっ!?」

まさか山鳥毛さんがこんなことを言うなんて。
もしかして私は夢を見ているのだろうか。
そうだ。そうに違いない。

ごしごしと手の甲で目元を擦ると、大きくてあたたかい手にやんわりと手首を掴まれて止められた。

「夢ではないぞ」

苦笑い。
山鳥毛さんは私の手首を掴んだまま、その手を自分の口元に持っていく。
そうして指先にそっと口付けた。

「君を愛している」

「!?」

「君の『本命』になりたいと言ったら、困らせてしまうだろうか」

優しく慈しむような声音での問いかけに対し、私はぶんぶんと首を横に振った。
困るなんて、とんでもない。

「嬉しい……私も、山鳥毛さんのことが」

「そうか。ありがとう、小鳥。これほど嬉しいことはない」

力強い腕を身体に回され、山鳥毛さんに抱き締められる。
彼の体温が伝わってきてとてもあたたかい。
私からもぎゅうと抱き締め返すと、頭上でフッと笑う気配が感じられた。

「しかし、困ったことになったな」

「えっ」

「君をこの腕の中に閉じ込めることが出来た今、他の鳥たちには『義理チョコ』であっても配って欲しくない。私だけの小鳥でいてほしいと思ってしまう……狭量な男だと呆れただろう」

「いいえ、そんな風に想ってもらえて嬉しいです」

逞しい胸板に頬擦りして顔を上げれば、優しく唇を重ねられた。

「小鳥」

「山鳥毛さん……大好きです」

出来上がったチョコをひとつ摘まんで山鳥毛さんの口元へと運ぶ。

「はい、あーんして下さい」

「嬉しいが、鳥たちにはとても見せられない姿だな」

苦笑した山鳥毛さんがチョコを食べたのを確認して、私は笑った。

「せっかく用意したチョコが無駄にならないように、全部食べて下さいね」

「承知した。責任を持って全て頂くとしよう」

精悍な頬に笑みを浮かべて請け合う山鳥毛さんは、実に頼もしい。

どこまでも男前なひとだ。


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