基本、審神者は本丸の敷地内から出ることはない。 万屋に行く時は外出が可能だが、必ず刀剣男士が一人付き添うことになっている。 他の本丸との合同演習の時などは、本丸の刀剣男士達総出での外出になる上、演習の結果いかんによっては今後の士気にも関わるわけで、楽しいピクニック気分というわけにはいかない。 そんな生活でも不便を感じることがないのは、全てがパソコン一つで何とでもなるからである。 政府管轄のネットショップで大抵の物は揃えられるのだ。 服ならば、インナーからアウター、トップスからボトムまで。 それこそ、内番で着られそうなスポーティーなジャージから、呉服屋で扱っていそうな高価な着物まで一通り揃っている。 今は夏物の寝間着用の浴衣を注文しているところだ。 自分のと、刀剣男士達のものを。 自分用にはガーゼの二枚重ね、刀剣男士達の分は、主に木綿の浴衣と、絹のものも少し。 「蜂須賀や三日月には何となく絹じゃないと駄目な気がして」 「どう違う?」 「吸水性とかもあるけど、主に高級感が違うよ」 パソコン画面を覗いていた三日月は、「ふむ」と顎に手をやった。 「俺はお洒落は苦手でな。主に任せる」 「責任重大だなあ」 マウスを操作して注文を終えると、ふう、と息をついた。 うーんと伸びをする。 今居る刀剣男士の数よりも少し多めに注文しておいたから、新入りが何人か来ても大丈夫だろう。 「茶でも飲むか」 「うん、私が淹れてくるよ。三日月は待ってて」 「近侍の仕事なのだろう?俺が淹れよう」 「大丈夫、座って待ってて」 天下五剣一美しいと言われる刀の化身にお茶の用意などさせられない。 台所に行き、手早くお茶を淹れてお茶菓子と一緒に運んで戻って来ると、三日月は大人しく座して待っていた。 そうしてただ座っているだけでも気品に溢れている。眩しい。 「すまんな」 「いいのいいの、動いたほうが気分転換にもなるし」 ずっと離れのこの部屋に閉じ込もっているほうが不健康だ。 せめて本丸の中だけでも自由に動き回りたい。 縁側から庭を見やると、しとしとと降り続く雨。 「梅雨だな」 「梅雨だね」 この長雨が上がれば本格的な夏が来る。 寝苦しい夜も快適な寝具があれば涼しく過ごせるだろう。 その辺の準備はバッチリだ。 「夏になったらスイカ割りしようね」 「誰が一番上手く斬れるか競うか」 「そんなこと言って、三日月が一番になりそうだよ」 「そうか?俺の負けでもいいんだがな」 いくさでなければ、若い衆に花をもたせてやるのが先達の役目、ということか。 「短刀でスイカ斬れると思う?」 「斬れるだろう。皆、もっと手応えのあるものを斬っているのだから」 何を、と聞く必要はなかった。 恐ろしげな姿をした遡行軍の敵にも怯むことなく斬りこんでいく者達だ。 スイカなどひとたまりもないだろう。 「夏になったら浴衣を着て花火が見たいな」 「花火か。パソコンの画像(え)でならば見たことがあるが、直に見るのは初めてだな」 「打ち上げ花火、見に行きたいね」 「主」 「屋形船に乗って、そこから花火を見るの」 「お前がそうしたいのなら」 湯飲みを手に、三日月は柔らかく微笑んだ。 「なんとしても俺が叶えてやろう」 「三日月が?」 「そうだ。信じられぬか?」 「ううん、信じる」 手を伸ばすと、あちらからも手を差し伸べられた。 互いのぬくもりを確かめあうように指を絡める。 空は厚い雲に覆われて相変わらず雨が降っていたが、確かにそこに広がる打ち上げ花火が見えた気がした。 「屋形船で花火見ようね、一緒に」 「ああ。必ず」 |