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どうしてこんなことになってしまったのだろう。

“それ”が始まった時に一番素早く状況を把握して動いたのは近侍の薬研だった。
彼は空き部屋の一つへ私を連れて来ると、普段は布団がしまわれている押し入れの中に私を隠し、着ていた白衣を私に渡して短刀を片手に携えながら言った。

「いいか、大将。何があっても……何が聞こえても、絶対に戸を開けるな。必ず俺が迎えに来る。だから、それまでここに隠れていてくれ」

私が頷いたのを確認すると、薬研は安心させるようにちらりと笑みを見せて、押し入れの戸を閉めた。

それからどれくらい経っただろう。

私はまだ真っ暗な押し入れの中で身を硬くして息を潜めている。
遠くから聞こえてきていた叫び声も、もう聞こえなくなって大分経つ。
薬研の温もりが残っていた白衣を抱き締めながら、それでも私は彼が戻って来るのを待ち続けた。

「……!」

──ぎし、という微かな音が耳に届いた。

誰かが廊下を歩いて来る。

…ぎし、…ぎし、…ぎし…

ゆっくりと近づいて来たそれは、私が隠れている押し入れへと向かって来た。

薬研、と小さく呟いたのと、押し入れの戸が開くのは同時だった。
眩しさに一瞬目が眩む。


「こんな所にいらしたのですね、主」


長谷部だった。
返り血で全身赤く染まった長谷部の二本の腕が伸びてくる。
その表情は至福の悦びに満ちていた。


「みぃーつけたァ」


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