1/1 


「茶菓子があると、とりあえず幸せになるとは思わんか」

「そうですね」

今日は三日月に万屋について来て貰っている。
三日月が自ら同行を願い出たのだ。
何を思って突然そんなことを言い出したのかはわからない。
何しろマイペースな男なので。
ただ単に茶菓子が食べたかっただけという可能性もある。
この万屋では、買い物をした客に茶と茶菓子が振る舞われるのだ。

「ここのお茶菓子美味しいですもんね」

「主もそう思うか」

にこやかに言って三日月が団子を一串差し出してくる。

「どれ、俺のもやろう」

「いえ、いいですよ。三日月さんのなんですから」

「構わんさ。今日は主の誕生日だろう」

「えっ」

驚いて、思わず三日月の顔を見る。
彼は相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。

「誕生日おめでとう、と言うのだったな、こういう時は」

「どうして…」

「薬研が教えてくれたのだ。誕生日の祝い方もな。主、手を出せ」

三日月はおもむろに懐から紫色の布に包まれた何かを取り出した。
包みを丁寧に開いて、その中身を取り出し、こちらの手の平にぽんとそれを乗せてくる。
それは柘植の櫛だった。

「え、え、あっ、あのっ」

「俺の生まれた時代にはなかった習慣だが、想う相手に櫛を贈るのは求婚を意味するのだろう?」

「そう、です」

「受け取ってくれ、なまえ」

わざわざ名前で呼んでくる三日月に、ずるい、と呟く。

「こんな時だけ、名前で呼ぶの、ずるいです」

「閨でも呼んでいるが」

「も、もう!三日月さん!」

「はっはっは、お前は可愛いな」

貰った櫛をどうしようかとしばし迷った末に、思い切ってそれを布に包み直して胸元にしまった。

「ありがとうございます。三日月さんもお願い事があれば言って下さい。私に出来ることなら何でもします」

「うん?俺の望みか?」

三日月は悩む様子もなく答えた。

「お前と組んず解れつまぐわいたい」

「まぐっ…!」

「叶えてくれるのだろう?」

天下五剣の一つにして、一番美しいとも言われる刀剣男士は、そう言って迫ってきた。

「み、三日月さん…!」

「はっはっは、苦しゅうない」

三日月の朗らかな笑い声が蒼天に吸い込まれていく。
彼は優しく微笑んで言った。

「して、祝言はいつ挙げる?」


─────

HappyBirthday to you


  戻る  
1/1
- ナノ -