「茶菓子があると、とりあえず幸せになるとは思わんか」 「そうですね」 今日は三日月に万屋について来て貰っている。 三日月が自ら同行を願い出たのだ。 何を思って突然そんなことを言い出したのかはわからない。 何しろマイペースな男なので。 ただ単に茶菓子が食べたかっただけという可能性もある。 この万屋では、買い物をした客に茶と茶菓子が振る舞われるのだ。 「ここのお茶菓子美味しいですもんね」 「主もそう思うか」 にこやかに言って三日月が団子を一串差し出してくる。 「どれ、俺のもやろう」 「いえ、いいですよ。三日月さんのなんですから」 「構わんさ。今日は主の誕生日だろう」 「えっ」 驚いて、思わず三日月の顔を見る。 彼は相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。 「誕生日おめでとう、と言うのだったな、こういう時は」 「どうして…」 「薬研が教えてくれたのだ。誕生日の祝い方もな。主、手を出せ」 三日月はおもむろに懐から紫色の布に包まれた何かを取り出した。 包みを丁寧に開いて、その中身を取り出し、こちらの手の平にぽんとそれを乗せてくる。 それは柘植の櫛だった。 「え、え、あっ、あのっ」 「俺の生まれた時代にはなかった習慣だが、想う相手に櫛を贈るのは求婚を意味するのだろう?」 「そう、です」 「受け取ってくれ、なまえ」 わざわざ名前で呼んでくる三日月に、ずるい、と呟く。 「こんな時だけ、名前で呼ぶの、ずるいです」 「閨でも呼んでいるが」 「も、もう!三日月さん!」 「はっはっは、お前は可愛いな」 貰った櫛をどうしようかとしばし迷った末に、思い切ってそれを布に包み直して胸元にしまった。 「ありがとうございます。三日月さんもお願い事があれば言って下さい。私に出来ることなら何でもします」 「うん?俺の望みか?」 三日月は悩む様子もなく答えた。 「お前と組んず解れつまぐわいたい」 「まぐっ…!」 「叶えてくれるのだろう?」 天下五剣の一つにして、一番美しいとも言われる刀剣男士は、そう言って迫ってきた。 「み、三日月さん…!」 「はっはっは、苦しゅうない」 三日月の朗らかな笑い声が蒼天に吸い込まれていく。 彼は優しく微笑んで言った。 「して、祝言はいつ挙げる?」 ───── HappyBirthday to you |