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「単純に力仕事だけをするというのも、たまには良いですね」

畑仕事を終えて、手拭いで額の汗を拭う太郎太刀。
彼に水筒のお茶を渡しながらなまえは笑顔で頷いた。

「お陰で助かりました。ありがとうございます」

「礼には及びませんよ。当番の仕事を果たしただけですから」

見上げるほどに背が高く体格の良い大男は、穏やかな声でそう答えた。

こうして隣に立って改めて見上げてみると、本当に大きい。
以前、好奇心から身長を計ってみた時は196pあった。
さすが大太刀の付喪神である。

手合わせの時などに、巨大な刀をまるで重さなど感じていないかのように無造作に振るう姿を見ていると、敵もさぞ恐怖に震えることだろうと思う。

同じ大太刀でも陽気な次郎太刀とは違い、性格はいたって冷静沈着。
ただし、温厚と呼ぶには少々引っかかる点がある。
まるで一歩退いたところから現世を見ているような冷ややかさを感じてしまうのは、きっと気のせいではない。

だから、もっと仲良くなりたい。もっとみんなと打ち解けてほしいと、内番を工夫したり、あの手この手で頑張っているところだった。

見上げる先では、太郎太刀が水筒の水で喉を潤している。
彼が耕してくれた土地は、これから種をまき、新しい畑として活用していく予定だ。

「この畑も夏には収穫出来るでしょう」

「そうですね。みんなにはお腹いっぱい食べてもらわないと」

刀剣男士も随分増えた。
この本丸ももっと賑やかになっていくだろう。

「地上がどうなろうが、思うところはあまりないのですよ」

己が耕した土地を見下ろしながら太郎太刀が静かに告げた。

「ただ、貴女には興味があります」

「私?」

「ええ。審神者というだけでなく、一人の人間としての貴女に」

太郎太刀はあくまでも冷静な口調で続ける。

「付喪神を多数従える貴女は、ある種、もうこちら側の領域なのでしょうか……」

呟かれた言葉に、一瞬寒気を感じた。
彼の言う通りであれば、自分はもはや普通のヒトとは言えない存在なのではないだろうか。

「だからなのでしょうね。私がどうしようもなく貴女に惹かれてしまうのは」

「太郎さん?」

「…戯れ言です。お気になさらず」

そう言われても期待してしまう。

本当は、ほんの少しだけでも好意を持ってくれているのではないかと。

そっと、彼の大きな手に触れる。

「汚れますよ」

「平気です」

拒まれないのを良いことに、そのまま手を繋ぐように握ってみた。
あたたかく、大きな手の平はしっかりとした感触があり、心地よい。

きゅ…と握り返された手に驚いて見上げると、太郎太刀は微かな笑みを浮かべてなまえを見おろしていた。
どこか神聖な感じのする美貌に息を飲む。

「もっと貴女のことが知りたいと思う……この気持ちは何なのでしょうか」

「それ、は」

その時、遠くからなまえを呼ぶ声が聞こえてきた。

「呼ばれていますよ」

ハッとして見上げる先にはもう先ほどの微笑みは見つからない。
いつもの近寄りがたい静かな表情があるだけだ。

それをとても残念に思っていることに気がついたなまえの心の中で、何かあたたかい感情が確かに動き始めていた。


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